「手当たり次第に口説くなと、いつも言っている。彼女を困らせるな」
 
「いやぁ、だって警戒心の強い殿下が珍しく心許してる女性ですよ。どんなご令嬢か、従者として気になるじゃないですか! それに仲良くしたって何も減るもんじゃなし、いいでしょう」

「良くない。離れろ」

「独占欲の強い男は嫌われますよ」

「ほう」

 シリウスが両手を組み、すいっと目を細める。怜悧な美貌の無表情は迫力がすさまじい。
 
 初夏なのに、シリウスの周りだけ温度が下がった気がする。

「ひぃっ! 冗談ですって、殿下! アデル嬢ぉ~、オレを助けてくださいっ!」

「私はシリウス殿下の味方だから、ごめんねライアン」

「そんなぁぁあ!」
 
 硬派なシリウスと軟派なライアン。見た目と性格どちらも正反対だけれど、とても仲の良い主従コンビに私はくすくす笑みをこぼした。

 そんな私を見下ろして、殿下もつられたようにちょっぴり目元をゆるめる。