「これは、向こうに持っていけばいいのか?」
 
 あまりに自然に尋ねてくるものだから、私もとっさに「はい」と言ってしまった。

 彼が洗い場に消えてから、ようやく「しまった」と思い至る。

(王子に洗濯物を運ばせたなんて、王宮の人に知られたら……)

「いやぁ、うちの殿下を顎で使うとは。ずいぶん不敬なことをしてくれますねぇ」

「ひいっ!」

 耳元で不穏な言葉をささやかれて、私はビクッと飛び跳ねる。
 
 慌てて振り返ると、シリウスの護衛騎士ライアンがニヤッとしながら立っていた。

「いやぁ、そんなに飛び跳ねるとは……ははっ、予想外でした~」

 ライアンは困ったように頭の後ろをかきながら、驚かせすぎたと謝罪する。

「本当にびっくりしたわ」と私はため息をついた。

「いやはや、申し訳ない。ですがアデル嬢の驚いた顔、最高に可愛らしかったですよ」

「あぁ、そう。どうもありがとう」

 チャラついた口説き文句を言いながら、ライアンは慣れた様子でパチッとウィンクしてみせた。呆れ顔を向ける私に構わず、ヘラヘラ笑っている。

 そこにシリウスが戻ってきて、ライアンに苦言を呈した。