【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 あっ――と驚きつつ振り返る。
 
 そこには、お忍び平民姿のシリウスがいた。

 公の場に出る時とは違い、セットされていない艶やかな銀髪が、サラリと風に揺れる。

 街によくいる平民の青年を装っているけれど、全身から漂う気品と美貌を隠せていない。
 
 洗濯かごという『クソダサアイテム』すら、シリウスが持つと高級品に見えてくるから不思議……。
 
「大嫌いより、大好きの方が幸せになれる、か。俺も昔、似たようなことを言われた経験がある」

「殿下っ! その……いつから見ていたんですか?」

「あの少年が少女をいじめてしまった所から、だな」

「最初から……。さっきの偉そうな言葉は忘れてください!」

「何故? 俺は良い言葉だと思った。いつか誰かに言うため、書き留めたいくらいだ」

「お世辞を言っても、クッキーくらいしかあげられませんよ」

「最高の褒美だ。甘い物は好きなんだ」

 冷酷だと思っていた彼は、打ち解けると意外にもフレンドリーで穏やか。無口だけど頑固ではなく、むしろ素直で、プレイベート時はどこかおっとりした雰囲気をまとっている。