【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「嫌いっていうのは、あなたの本当の気持ち?」

「……ちがう」

「もし、嫌いとか馬鹿って自分が言われたら、どう思う?」

「かなしい」

「そうよね。悲しませることを言っちゃったとき、どうするんだっけ?」

 少年がうつむきがちに「ごめんなさい」と言った。少女が「うん、いいよ」と呟く。二人は目を合わせると、少しギャクシャクしつつも、お互いにはにかんだ。
 
 私は、ほっとしながら優しくさとす。

「喧嘩してもいいわ。でも自分が悪いときには、ごめんなさいを忘れずにね。あと『大嫌い』って言うより、『大好き』を伝える方が、きっとみんな幸せになれると思うわ」

 少年少女は素直にこくりと頷いた。
 
「さぁ、シスターがクッキーを持って来たみたい。二人で食べてらっしゃい!」

 二人はおずおずと手をつなぐと、笑い合って走って行った。

 あの子たちは、いつも言い争いをしている。けれどそれは仲が悪いからではなく、お互いを意識しているからだ。

 重たい洗濯かごを、よいっしょ!と持ち上げて、私は『初恋かぁ、甘酸っぱいなぁ』なんて考えていた。

「良い言葉だな」
 
 穏やかな声が聞こえた瞬間、腕の中からひょいとカゴを奪われた。