私は、祈りを邪魔しないよう静かに歩み寄り、通路を挟んだ反対側のベンチに腰を下ろした。

 目を閉じていた彼が、ちらりと私を見る。そして少し驚いた様子で目を見張った。
 
「君は――。よく会うな、シレーネ令嬢」

「ええ、またお会い出来て光栄です、シリウス殿下」

 私はシリウスに向けて、淑やかにほほ笑む。

「君も祈りに来たのか」

「はい。それと、孤児院の慰問に。エスターがしていたことを引き継ぎたいのです」
 
「そうか」

 美しい容貌はどこか物憂げで、瞳の奥には闇があるように見える。

 あと数ヶ月後に、反逆罪で断頭台にのぼる悪役王子。


(この人を助けられたら、ミーティアの幸せなシナリオを壊すことが出来るんじゃないかしら)
 
 
 シリウスの横顔を眺めながら、私はひっそりと考えた。