「エスター? ぼんやりして、どうしたんだ? 眠いのか?」

 
 目を覚ますように、ダニエルが私の顔の前で手を振る。その拍子に、彼の手に傷があるのを見つけて、私は「怪我したの?」と尋ねた。
 
 
「ああ、剣の稽古中にね。このくらい平気さ」

「甘く見ちゃだめよ。すぐ治すから、手をかして」

 彼が差し出した掌に、自分の手をかざす。
 意識を集中させると、私の手元が淡く光り、傷がふさがった。

「これでいいわ、気をつけてね」

「ありがとう。いつ見てもエスターの異能はすごいな。物を浮かせたり動かしたりできる異能持ちは多いけど、君のように傷を治せる人は、この王都を探しても、そういないよ」

 
 ダニエルは嬉々とした表情で、私の力をしきりに褒めちぎる。けれど、彼は私を賞賛するように見せかけて、実は自分に酔っているだけ。

 恐らく今も『珍しい異能者の女と結婚できる俺って凄い』と心の中で自画自賛している。私の婚約者ダニエル・カルミアは相当なナルシストなのだ。

 私は適当に相づちを打ちながら聞き流した。