「立ち話もなんだし、ホールで踊らないか?」

「せっかくのお誘いですが、そろそろ帰らなければ――」

「お前、まさか誘いを断るのか? この俺が、お前のためにわざわざ時間を割いてやるというのに」

「ではなおのこと、私がカルミア様のお時間を奪うなど、あってはなりませんわ。本日はお会いできて光栄でございました」
 
 威圧的なダニエルの物言いに動じることなく、礼節を保ちつつ拒絶の意志を示す。

 別にダンスくらい踊っても良いのだけれど。過去に私のことをぞんざいに扱い、さっさと妹に鞍替えした男の手など、指一本触れたくなかった。
 
 商人の娘ごときに振られるとは、思いもしなかったのだろう。ダニエルは唖然としていた。しかし徐々に怒りが込み上げてきたのか、表情が険しくなり……。

「商人の娘ごときが、何様だ!」

 ついにぶち切れた。

「俺は、円卓会議に名を連ねるカルミア侯爵家の跡取りだぞ! 貴様の家を潰すくらい造作も無い。四の五のいわず、俺と踊ればいいんだよ!」

 ダニエルは人目も気にせず怒鳴り散らすと、私の手をぐいっと引っ張った。

 力任せに掴まれた手首に痛みが走る。
 
「――っ」

 顔を歪めた瞬間、ダニエルの手の感触がふっと消えた。
 
 直後「いっ!痛い!やめろ!」という情けない声が廊下に響き渡る。

 
「円卓の貴族を名乗るならば、それ相応の品位を保つことだな」

 
 いつの間にか私の前に長身の男性が立っており、ダニエルの腕を捻り上げていた。