「君は世間では故人だ。この屋敷を出て、自由に生きることは叶わない。君の無実を証明してあげられなくて……こんな形でしか救えなくて。すまない」

 悲痛な面持ちで告げるシレーネ様に、私は慌てて「どうか謝らないで下さい。謝るべきなのは、私の方です」と声を上げた。

 両手を握りしめ、唇を噛みしめる。

 私は無力だ。シレーネ夫妻から頂いたご恩に報いるすべがない。それどころか、これから一生シレーネ家に迷惑をかけるかもと考えたら、申し訳なさでいっぱいになった。
 
 
「命を救われて、守られて……なのに、何もお返しできない。私は、厄介者の、疫病神です……」

「自分を責めてはいけない。アデルも、君のそんな悲しい顔は望まないさ」

 
 先程から感じる、この嫌な予感は何だろう。私は思い切って、ずっと気になっていたことを口にした。

 
「あの、アデルはどこですか? 王都の本邸にいるんでしょうか」

 問いかけた瞬間、二人の顔が悲しみに歪む。夫人は両手で顔を覆い、肩を震わせてうつむいた。


 妻の肩を抱き寄せたシレーネ様が、涙のにじんだ声で言った。

 
 
「アデルは……亡くなったよ」