ここには、私と同じように訳も分からず連れて来られた人間が大勢いるのだろう。

 
『出してくれぇぇえ。ここから、出してくれよぉ……』

『一体、ここはどこなのよぉ。お願い!誰か助けて!』

『私を誰だと思ってるんだ! 許さん……許さんぞ!』
 
 
 毎日、扉の向こうから聞こえてくるのは、半狂乱になった人々のわめき声と絶望に満ちた叫び。それに加えて、時折、なにか重たい物を引きずるような音が聞こえてくる日もある。

 それが何かずっと不思議に思っていたが、最近になってようやく見当がついた。

 あれは、亡骸を運ぶ音だ。
 ここで息絶えた者は棺に入れられ、外へ出されるのだろう。
 
 
(気が狂いそう)

 
 生を謳歌することも出来ず、さりとてひと思いに死ぬことも出来ない。
 
 暗い病室の中で、私は一生、死んだように生き……そして、朽ち果ててゆくのだろう。

「なんて酷い人生なのかしら」

 口を開くと、乾燥してひび割れた唇が痛んだ。声もかさついてほとんど音にならない。

 抱えた膝に顔を埋めてじっとしていると、ドアの向こうに人の気配を感じた。

 食事の時間だ。
 
 小さな配膳口の外鍵が開き、トレイにのった粗末な食事が差し出される。

 石のように固いパンと、具のないスープ。

 いつもと代わり映えしないメニュー……のなかに、一つだけ普段と違う物があった。

 小さな包み紙。中身には白い粉薬らしきものが入っている。
 
「これは……?」

 薬包を見下ろして首をかしげていると、扉の外からひそめた声が聞こえた。