とっさに見上げると、男性は顔を隠すように外套の襟をひっぱり、口元を隠した。
 
 目深にかぶった帽子も相まって、表情がまったく(うかが)えない。

「すまない、怪我はないか」

 落ち着いた、低くて穏やかな声音だった。
 顔は見えないけれど、どうやら怒ってはいないらしい。よかった。
 
「はい、支えて下さって、ありがとうございます」

「怪我がなくて良かった。では、失礼」

 長身の男性はさっと身をひき、聖堂へ入っていった。
 
(あんなに顔を隠すってことは、後ろ暗い職業の人か、貴族のお忍びかしら)

 そんなことを考えながら、私は帰路についた。