【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「それ以上は危ない。もう逃げるな」

 肩を抱き寄せられ、腕の中に囲われる。抵抗したら簡単に抜け出せるくらい、やさしい抱擁。だけど、振りほどけなかった。

「愛してる」

 耳元で、低く囁かれる。

「たとえ君が、エスターであろうと、なかろうと構わない。俺は変わらず、アデル・シレーネという女性を愛している」

 力強い腕に抱かれ、何度も熱烈に愛を告げられる。
 
(ずるい。こんなのは、ずるすぎる)

 いつもは冷たい無口無表情なのに、こんなマグマみたいな熱い感情を向けられたら、困る。

「愛してほしいとか、何かして欲しいとは思っていない。だが、君が何か苦しみや悲しみを背負っているのなら、どうか俺を頼ってくれ。穏やかな人生を送り、笑って、幸せになって欲しい。どうか……」

 私の肩に顔を埋め、シリウスが言った。
 
「もう二度と、黙って俺の前からいなくなるな」

 苦しげで祈るように切実な声だった。