【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「どうして……」

 どうして分かったの? と言いそうになって、とっさに言葉を変える。

「……仰る意味が分かりません」

「最初は、親友の君にエスターの面影を重ねているんだと思った。ずっと好きだった人を失った喪失感を、君で埋めようとする自分が嫌で、アデルへの想いは()()()()だと自分に言い聞かせた」

 だが無理だった、とシリウスが切実に言う。

「駄目だと思っても、君から目が離せなくて、惹かれていく自分を止められなかった」

 一歩、シリウスが進む。
 そのたび、私は一歩後ろに下がる。

 埋めてはいけない距離を保つために。

「この手紙を受け取り、エスターが生きていると思った瞬間、なぜかアデルの顔が浮かんだ。そこで確信したんだ、君がエスターだと」

「ほんとうに、意味がわかりませんわ。ぜんぜん、理由になっていない……」

「ああ、自分でもそう思う。だが、これはもう本能としか言いようがない」

 シリウスが困ったように肩をすくめる。

 こつんと私の背中が柵に当たった。もう逃げられない。