国王陛下は、ひれ伏すウォルス伯爵の目の前で足を止めた。

「久しいな、ウォルス」

「陛下……この度は、もうしわけ、ございません……」

「全てシリウスから聞いて知っておる。もういい、顔を上げなさい」

 床に額を擦りつけるウォルス伯爵の肩に、陛下が手を置いた。

「そなたのことは余が一番よく知っておる。生真面目で善良なそなたを、復讐などという愚かな道に駆り立てたのは他でもない、余の責任だ」

「そのようなことは……! すべて、私の、愚かさゆえで、ございます……。シリウス殿下が相談にのって下さっていたにもかかわらず、私は、己の憤りを抑えることができませんでした……」

 なんとお詫び申し上げればよいか、とウォルス伯爵は言葉を詰まらせ、平伏しながらむせび泣く。

 陛下は、忠臣の憐れな姿に目を細め、沙汰を下した。
 
「カルロス・ウォルス伯爵。これより、そなたに――謹慎を命じる」

 
 ウォルス伯爵が、驚いた様子ではっと顔を上げる。陛下は静かな声で続けた。

 
「厳重な監視の下、期間は……そうさな、一年とするか。その間、我が国にとって有益な法案を作成するように。謹慎が明け次第、成果をシリウスへ報告し判断をあおぎなさい。余の期待を裏切ってくれるなよ、ウォルス」

 処刑ではなく謹慎。それは紛れもない国王による恩赦だった。
 
 陛下の温情に、ウォルス伯爵は号泣し、声にならない感謝を何度も口にする。
 
 水を差したのは、メイナードだった。