【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「静まれと言っている! 命令を聞けないのであれば、みな処刑だ! 衛兵! ここにいる者達を全員、引っ捕らえろ!」

 命を下された衛兵たちが、視線をさまよわせ困惑する。
 
 
「何をしている、早くしろッ!」

 
 ひときわ大きくメイナードが吠えた、その時。
 
 ギィ――という重たい音が響き、入り口の扉がゆっくりと開いた。

 
 熱気のこもった室内に、外の空気が流れ込んでくる。
 
 
「口を閉ざすのはお前だ、メイナード」

 
 低い、しわがれた声だった。

 決して大きい声ではない。が、圧倒的な貫禄を滲ませた声音に、場内が水を打ったように静まり返る。人々は口を閉ざし、固唾を飲んで『その方』を見つめた。
 
 
 騎士に支えられ、法廷の中央に歩み寄る一人の男性。

 
「な、なぜ、ここにいらっしゃるのですか。……父上」

 
 病床にいるはずの現国王の登場に、メイナードは驚愕の表情で呟いた。