【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 シリウスに命じられ、書記官が内容を高らかに読み上げた。
 
 傍聴席に座る、あまたの貴族諸侯、有力者、市民の前で、カルミア侯爵の犯した悪行が明らかになっていく。

 領民からの不当な税の取り立て、孤児院への寄付金の着服、低賃金での奴隷労役。横領、収賄、裏組織との癒着。

 暴かれる罪に、当の本人だけでなく、カルミア侯爵を円卓に入れたメイナードの顔も青ざめていく。

 ミーティアは、かろうじて聖女の仮面をかぶり続け平静を保っている。が、さすがに動揺を隠せないようで、扇子を持つ手が震えていた。

 
「――以上です」

 書記官が席に着く。

 ざわつく傍聴席をぐるりと見渡し、シリウスが声高に訴えた。

 
「ウォルス伯爵は、許されざる罪を犯しました。しかし忠義に厚い彼を絶望させ追い詰めたのは、他でもない。兄上、貴方だ」

 
 シリウスは強い眼差しで兄王子を見上げ、はっきり述べた。
 
 
「これは貴方の罪だ――メイナード兄上」


 形勢逆転とは、まさにこのこと。

 ウォルス伯爵を反逆者として見下していた人々も、今ではすっかり同情しきった様子で裁判の行方を見守っている。
 
 もはやここは伯爵の裁判ではなく。汚職まみれのカルミア侯爵と、それを円卓に加えたメイナード、そして裏から円卓会議の人事を操っていた聖女の罪を問う場になっていた。