【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「ウォルス伯爵、早く席につきなさい」

「は、はい……」
 
 背の高いシリウスの影から現れたのは、げっそりとやつれた顔でうなだれる小柄な男性。怪我をしているのか、右腕を三角巾で固定していた。

 
 ウォルス伯爵。少し前まで、円卓会議に名を連ねていた貴族だ。
 
 爵位は高くないものの、真面目で勤勉な働きぶりから、国王陛下の寵愛を受けていた忠臣。
 
 だが主君である陛下が病に倒れ、メイナードが代理を務めるようになってから、突如円卓から除名された。その空いた席に座ったのが、ダニエルの父親であるカルミア侯爵だ。

 
 シリウスに支えられながら、ウォルス伯爵がフラフラと被告人席につく。

 書記官が罪状を読み上げた。

「カルロス・ウォルス伯爵、貴殿は昨日、メイナード殿下を殺害する目的で『玉座の間』に侵入。襲撃するも、シリウス殿下に取り押さえられ、未遂に終わった。――相違はないか?」

「……はい、そのとおりで、ございます」

 裁判席でメイナードが、ふんと鼻を鳴らす。
 
「この僕の命を狙うとは、万死に値する。カルロス・ウォルス、貴様は中央広場で斬首刑だ」