はぁ、とため息をつく。
 今日はこれで一体、何度目だろうか。

 見かねた副官のライアンが、書類から顔を上げて「どうしたんです殿下?」と尋ねてきた。

「ここ数日、様子が変ですよ? 憂い顔でため息をつくなんて、恋煩いする乙女じゃないんですから」

 はからずしも図星を突かれ、返答に困る。

 無言の俺に、ライアンが「え、本当に恋煩いなんですか」と絶句した。手元の書類を放り出して、ニヤニヤ顔で俺の机に歩み寄ってくる。

「勤務中だ。無駄口を叩かず職務に戻れ」

「朝からずっと詰め所で書類仕事なんて、健康に悪いですよ。ちょっとだけ休憩しましょう。オレが悩みを聞いてあげますから」

「結構だ」

「そんなこと言わずに。ほら、ここには俺しか居ませんし。他言はしませんから」

 ライアンは、俺のデスクの正面に椅子を持ってくると「さぁさぁ」と話を促してくる。
 
 こうなったコイツは手に負えない。従者であり護衛であり、二歳年上の悪友でもあるライアンは、軟派な見た目どおり、恋愛話の類いが好きな奴なのだ。

 話題を提供してしまったら最後、話すまでつきまとわれる。

 俺は観念して、口を開いた。