私は澄まし顔で、騒ぎ立てる伯爵令嬢に向かって告げる。

 
「私、記憶力が良いのです。人の顔、名前、好きなもの、嫌いなもの、誰がいつ・どこで・なにを・だれと、どんな風に行っていたか、覚えているんです。それに、情報を仕入れて売るのは商売人の基本ですから、自然と情報も集まって参りますし」

 
 にっこり邪気のない笑顔を浮かべて、言った。

 
「お望みであれば、もっと詳しくお話し致しましょうか?」

 
 ――伯爵令嬢だけじゃなく、あなたたち全員の秘密を、ね。

 
 言外にそう含めれば、令嬢たちは全員もれなく顔をひきつらせた。
 
 ただひとり、ミーティアだけが愉快そうに笑っている。
 
 あれは、お気に入りのおもちゃを見つけた時の顔。きっと、私の情報力に利用価値を見いだしたのだろう。

 ソニアの報告で、ミーティアが社交界の新星『アデル・シレーネ』に興味を持ち、身辺調査をしているのは知っていた。さらに(エスター)の死を疑っていないことも把握済み。

 
「わたくし、あなたを気に入りましたわ、アデル」

 
 聖女のほほ笑みを浮かべたミーティアが、ことさら優しい声音で言った。

 
「わたくしの『お友達』になってくださる?」

 
 昔から姉の物を何でも欲しがり、挙げ句の果てに無実の罪を着せて死に追いやった。強欲で残忍な、悪魔のごとき聖女(いもうと)

 
 憎き(かたき)の誘いを、私は――。

 
「光栄ですわ、聖女様」

 
 笑顔で受け入れた。