我に返った伯爵令嬢が、小馬鹿にしたように、ふんっと鼻をならした。

「いやだわ。カップを落とすなんて、淑女として恥ずかしくないのかしら。まだ病気が治っていないのではなくて?」

「おやめなさい。シレーネさまに失礼ですわよ」

 伯爵令嬢の無礼をたしなめるミーティアに、その場にいた令嬢たちが「お優しい」だの「まさに聖女さまだわ」なんて賞賛を送る。

(類は友を呼ぶというけれど。ミーティアも、よくもまぁこれだけ人柄の『よろしい』お友達を集められるものね)

 張り合うのも馬鹿馬鹿しい。けれど、言われっぱなしで嫌がらせがエスカレートしても面倒。

(すこし釘をさしておかなきゃね。安易にこちらに手を出すと、どうなるのか)

 私は凜と通る声で、部屋に充満する陰口のひそひそ声を切り裂いた。

「お気遣い、ありがとうございます。おかげ様で病気はすっかり良くなりました。――それにしてもこの紅茶、とても良い香りですわね」

 こぼしてしまったのが残念ですわと暢気に言う私を、その場にいた全員がいぶかしげに見ている。

「紅茶と言えば……そうだわ」

 私は視線を、ミーティアの隣に座る伯爵令嬢へと向けた。