「あらあら、緊張している? ミーティアさまは寛大なお方。あなたのような平民にもお優しいのよ。さぁ、遠慮せずお飲みになって」
 
 ミーティアの隣に座る伯爵令嬢が、目を細め、含み笑いを浮かべながら紅茶を勧めてくる。

 ぐるりと見わたすと、私以外みんな貴族令嬢。
 
(あぁ、そういうことね)
 
 私がここに呼ばれた理由が、やっと分かった。

(社交界で目立つ私に警告したいのね――平民のくせに出しゃばるな、って)

 心配そうにこちらを見つめるソニアに、大丈夫よ、と目で合図を送る。
 
 飲まずに変な因縁を付けられても困るし、口をつけるふりをしようとカップを持った――そのとき。

 取っ手が器から外れ、ガシャンと音を立て中身がこぼれた。
 熱いしぶきが跳ね、ドレスが茶色くにじむ。

「お嬢様、大丈夫ですか。すぐ冷やす物を」

「ありがとう、ソニア。私は大丈夫よ。それより、このカップを片付けてくれるかしら」

「かしこまりました」

「みなさま、お騒がせ致しました」

 
 冷静かつ淡々と謝辞を述べる私に、その場は一瞬静まり返った。
 
 彼女たちにしてみれば、戸惑い取り乱す姿が見たかったのかもしれない。