【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 聖堂でお祈りしたあと、珍しくシリィが自分のことを語ってくれた日があった。

「俺、ずっと平民だけが不幸なんだと思ってた。貧しい者は苦しくて、裕福な貴族は幸せなんだって。だから、お前に八つ当たりしちゃった。でも、エスターのおかげで気付いたんだ」

「私のおかげ? どんなこと?」

「貴族や異能者、表向きは恵まれてるように見える人でも、みんな辛いことや不安なことがあるんだって。俺、やっと気付いたんだ。だからさ、その……」

 シリィは口ごもったあと、そっぽを向いて言った。

「もしお前が、家族にとって要らない子になったら……おっ、俺がもらってやるよ!」

 だからあんま心配すんな!とシリィが思い切った顔で告げる。
 
 威勢の良い声が、ひとけの無い聖堂にぐわんとこだました。

 
 今なら、彼なりの告白だと分かるけれど、当時の私は幼すぎて理解出来なかった。

 その結果「もらってやるって、私、物じゃないわよ!」と言ってしまい、しばらく口を利いてもらえなかったのも、今となっては良い思い出……。

 夢の中の景色が、次々と移り変わる。
 
 幸せな思い出の数々に浸り、温かくて優しい過去の記憶を追体験する。

 でも私は知っている。

 この夢の終わりが、酷く悲しいものだということを――。

 
 シリィとの別れは、ある日突然訪れた。