【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「シリィ? どうかしたの?」

「べつに、なにも」

 シリィはいつも通りぶっきらぼうに言うと、ぷいっと背を向けてしまった。

 なんで? どうして?と聞いても、『別になんでもない』とはぐらかされてしまう。
 
 見れば、彼の頬から首筋、耳がじんわり真っ赤に染まっていた。

「はっはぁ~ん、分かったわ。シリィ、あなた、ごめんって言い慣れていなくて照れているんでしょう!そうなんでしょう!」

「いや、違う」

「だったら何なの? どうして背中を向けるの?」
 
「だから、別になんでもないって! つーか、どうせお子様にはわかんねーよ」

「お子様じゃないもん!」


 この日を境に、私とシリィは一番仲良しな友達になった。

 彼になら、私は何でも打ち明けられた。

 家族のこと、不仲な妹のこと、そして常に抱えている不安についても。

「要らない子になったら、きっと捨てられちゃう。だからいつも聖堂で祈っているの。――いい子にしますから、私が両親にとって、価値のある子どもでいられますようにって」

 シリィはいつも、黙って聞いていた。

 否定せず、大丈夫だよなんて安易な気休めも言わず、ただただ聞いてくれていた。

 それが私にとって何より嬉しくて、安心した。