【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

「じゃあ、仲直りのプレゼントをちょうだい!」

「仲直りのプレゼント?」

「そう。あの花をくれたら、許してあげる」

 私の指さす方を見て、シリィは分かったと立ち上がる。
 
 そして花壇の近くへ行くと少し考え込んで……。満開の花を手折るのではなく、咲ききってしぼみ、風にあおられて地面に落ちた花弁を拾って戻ってきた。

 そのあまりの優しさに、思わず笑みをこぼす。
 
 花さえ手折れない優しい彼が、私に酷いことを言った。それはきっと悪意からではないのだろう。

 得体のしれない貴族令嬢が、どうして足繁く孤児院に来るのか、不審に思っていたのかもしれない。

 
 シリィが水色の花びらを乗せた両手を差し出す。私は包み込むように、彼の両手に手を添えた。

「この花ね、ネモフィラって言うんだって。お祖母さまからもらった花図鑑で読んだの」

「知らなかった。ネモフィラ、か」

 二人で、重なり合った手の中の花をのぞきこむ。

「そう、ネモフィラ。花言葉はね――『あなたを許す』」

 シリィがはっと顔を上げた。
 間近にある彼の青い瞳が、陽光を受けてキラキラかがやく。

 私は満面の笑みを浮かべて言った。
 
「これで仲直り! ねぇ、シリィ、私と友達になってくれる?」

「……っ! うん、もちろんだよ。……エスター」

 そう言ったシリィは、春の木漏れ日にも負けないくらい眩しい笑顔を浮かべていた。
 
「いま、初めて私の名前を呼んでくれたよね? すごくうれしい!」
 
 心のまま気持ちを伝えると、シリィは慌てた様子で手をパッと手を離した。