【コミカライズ配信中・書籍化決定】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 しんと静まり返った中庭に、私とシリィ、二人だけが取り残される。

 さぁぁっと柔らかな春風が吹き、花壇にある色とりどりの花弁が揺れた。
 黄色や白い蝶々が、ひらひらと私たちの間を通り抜けてゆく。

 私は芝生の上に座り込んでうつむいたまま、何も喋らなかった。

 何を言えばいいのか分からなかったし、柄にもなく大泣きしてしまったのが恥ずかしかったから。

 一分にも満たない静寂が、とても長く感じられた。
 
 やがて頭上から「……あのさ」という呟きが聞こえてきた。

 視線を少し上に向けると、膝をついたシリィとちょうど目が合った。
 
「ごめん。酷いこと言って泣かせて。本当に、ごめんなさい」

 真剣な表情とまっすぐな言葉に、心からの謝罪と後悔が伝わってくる。

 何か言わなきゃ――と思うのに、良い言葉が思いつかない。

(こういうときって、何て言えばいいんだろう)

 思えば、誰かと本気で喧嘩して、謝罪される経験はこれが初めてだった。
 
 
「やっぱり、許してもらえない……よな。あんなに酷いこと言って、何度謝ったって足りないのは分かってる。でも、ごめん」

 シリィは頭を深々と下げた。

「違うの、もう怒ってないわ! 大嫌いは悲しかったけど、もう怒ってないから」

「ほんとうに?」

 顔を上げてすがるような目でこちらを見るシリィ。

 そのとき、私の視界にあるものがちらついた。頭のなかにパッと名案が浮かぶ。