「さて、報告書をもらおうか」

 ローズが手渡したのは、殿下の婚約者候補のご令嬢に関する素行報告書だ。


 ちなみに、先程ローズに嫌がらせをした令嬢の一人――ルーク殿下に想いを寄せる彼女も、爵位が高いため候補者リストに載っていたが……。

 今日の行動により評価はマイナス。

 自らの醜い行いで、せっかくのチャンスが台無しだ。


 殿下は報告書をめくりながら、ため息をつく。

「他者を見た目や身分によって差別し(おとし)める人間は、王族の一員となる人間として不適格。このマイナス評価のご令嬢は、リストから外してくれ。以降、調査は不要だ」

「かしこまりました」

「いつも僕のためにご苦労さま。君は本当に優秀な【影】だ。今日は疲れただろう? 頑張ったご褒美にクッキーをあげよう」

「殿下、私は今年でもう十四。お菓子を欲しがる子供ではありませんわ」

「そうか。もうそんなに経つのか。ハルモニア伯爵に手を引かれて来た、あの小さな可愛い女の子が、今はもう立派なレディ。時の流れは早いね。僕も歳を取ったものだ」

「またそんなことを仰って。殿下は、まだ十六歳ではないですか」

 ローズは先程よりも気安い口調でルーク殿下と話す。


 何故、一国の王子とこんなにも砕けた会話が出来るのかというと――。