質屋か闇市にでも売り飛ばしてしまおうかとも考えたが、それも面倒。

 じゃあ、捨てる? 若干、勿体ない気もする。

 大事に保管して、いつか返してあげるか……。

「そこまでお人好しにもなれないのよね。さて……」

 ローズは、暗くなる空にうっすら見え始めた月に向かって。


 「あなたなら、どうする?」――と問いかけた。


 
◇◇◇


 ローズが立ち去った数分後。


 顔面蒼白になった令嬢が三人、玄関ホールに駆け込んできた。
 

「どこっ!? 私の指輪どこよ!!」

「たしか、ここら辺で落としたはず……」

「ない……ないっ!!!どうしよう夜会が始まっちゃう……どうしよう……どうすればいいのぉ……」


 ローズに『床とダンスを踊る方がお似合い』と言った三人組自身が、今は憐れに大理石の床に這いつくばって必死に指輪を探している。


「ない……ないっ!ないぃぃいッ!!!!」

「どうして……どうしてよぉ」


 焦って動揺して泣いて、取り乱しながら無我夢中で捜索する。
 
 しかし、見つかるはずもなく。

 彼女たちはそれぞれ自分の両親に叱られ、婚約者とその家族に呆れられると同時に失望された。


 結婚を前に婚家と不仲になった憐れな令嬢二人が、その後どうなったのか……。

 少なくとも「私って愛されているわ!」なんて言える未来じゃないことだけは確かだった。



 そして、三人組の残りの一人。

 ルーク第三王子に想いを寄せている令嬢の恋もまた、叶うことはない。