何事もなかったかのように無表情で立ち上がり、左手の中にある金属の感触を確かめながら、冷めた声で呟く。

「憐れなのは、貴方たちの方よ」

 転ぶ際にはしっかりと完璧な受け身を取って無傷。心も勿論ノーダメージ。
 
 そして手の中には、背中を押された瞬間、彼女たちの指から即座に抜き取った婚約指輪が二つ。

 彼女らは、奪われたことになど全く気付いていない様子だ。
 
 それもそのはず。

 気付かれないように、高度な盗みのテクニックを使ったのだから。


 夜会まであと一時間を切った現状で、二人仲良く婚約指輪を無くした彼女たちは、婚約者にどう言い訳するのか。


「私には関係のないことね」


 彼女たちが婚約者と喧嘩して不仲になろうが、婚約破棄されようが、どうでも良い。一切興味なし。

 だが、他人を傷つけることをしたのなら、相応の罰を受けてもらわなければ。


――私、虐められて黙って泣き寝入りするほど、か弱くないの。ごめんなさいね。
 

 因果応報――他人に与えた良いことも悪いことも全て自分に返ってくる。

 相手をおとしめるなら、自分も傷つけられる覚悟を持ってもらわなければ。


「さて、夜会用のドレスに着替えましょう。パーティが終わったら『報告』に行かなきゃ。忙しいわ。……あ」


 ローズは婚約指輪を握りしめたまま「これどうしよう」と頭を悩ませた。