早口でまくし立てる相手の言葉を聞き流し、ローズは「それでは失礼いたします」と話を切り上げ、背を向ける。
 
 立ち去ろうと一歩足を踏み出した、その時――背後に三人の気配を感じた。

 直後、背中を急に強く押され、ローズは前につんのめる形で、その場にうつ伏せで倒れ込んだ。

 バタン――!という派手な音が大理石の玄関ホールに響き渡る。

「あら、そんな何もない所で(つまづ)くなんて、相変わらず地味な上にドジなんて……あぁ、かわいそう。みんなもそう思わない?」

「ええ、本当にかわいそう」

「かわいそう」

 口元を(おうぎ)で覆い、くすくすと楽しそうに笑う三人組。
 
 ローズの頭上から雨のように嘲笑(ちょうしょう)が降り注ぐ。

「あなたみたいな『残念令嬢』は床とダンスを踊っている方がお似合いね」

「そうそう。今夜のダンスパーティでもそうやって、床に這いつくばっていれば? 誰か手を差し伸べてくれるかもよ」

「こんな大きなゴミがホールに落ちていたら、皆様の邪魔になるわ。それじゃあ、私達はこれで。ご機嫌よう、憐れな憐れなローズ・ハルモニア残念令嬢」

 最後まで彼女たちは、実に愉快だと言わんばかりにローズを侮辱して去って行った。

 誰も居なくなった冷たいホールに一人きり。

 うつむき、しゃがみ込んでいたローズは涙を流し…………てなどいなかった。