「ありがとうございます! わたくし、実は第三王子のルーク殿下を狙っているんですの。今日の夜会でダンスを踊る予定で……今から緊張してしまいますわ!」

「あぁ、だからあなた、まだ誰とも婚約していないのね。美人で爵位も高いのに不思議だったのよ。頑張りなさい」

「はい! 」


 廊下のど真ん中に立ち、手より口を動かす令嬢達。

――まったく、どこの世にもサボり魔はいるのね……。とにかく、見つかると面倒だわ。

 ローズがそう思っていると、三人組のリーダーがこちらに気が付いた。

 瞬間、にやりと意地の悪い笑みを浮かべ、ひん曲がった口を開く。

「あら、ローズ・ハルモニア伯爵令嬢じゃない。相変わらず地味で特徴のない顔ね。あまりに影が薄すぎて壁と同化しちゃっているじゃない。一瞬気付かなかったわ。ねぇ、あなたも今夜の舞踏会に来るの?」

「はい。宮殿舞踏会への出席は貴族令嬢の義務ですので」

「そうなの。あなた、まだ誰とも婚約していないわよね? どうせ踊る相手も見つからないでしょうに。よく行く気になれるわ。恥ずかしくないの?」

「……」

「あぁ、あまりに婚約者が見つからなくて焦っているのね。かわいそう。あなたみたいな凡庸な令嬢を拾ってくれる物好きな殿方が居れば良いわね」


――こういう輩は相手にしないのが一番ね。