宮廷舞踏館では、今夜のダンスパーティーに向けて慌ただしく準備が進められていた。

 王族の皆様も出席される盛大な夜会。当然、準備も大がかりなものになる。

 女学院に通う貴族令嬢たちも今日は授業はお休み。
 
 代わりに、人手不足を補うため、会場設営の手伝いに駆り出されていた。


 ローズ・ハルモニアも例外ではなく、朝から床の掃き掃除をしたり、窓拭きをしたり。

 今は、玄関ホールに置いてある花瓶に薔薇を飾っている。


 ふいに背後から(やかま)しい女性達の声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声にげんなりしながら肩越しに振り返ると、三人の令嬢がこちらに向かって歩いてくるのが見える。

 華美なドレスをまとった彼女らは、ローズの級友であり、ことあるごとに嫌味を言ってくる……少々厄介な人たちだ。

 三人組のうち二人が、真ん中にいるリーダー格の令嬢を褒め称えた。


「まぁ! 素敵な婚約指輪ですわね。いいなぁ。私のより高そう……羨ましいですわ」

「ええ、本当に綺麗で素敵! とてもお似合いですわ」

「貴重な宝石を使った特注品なの。凄く高かったでしょうに。今日の夜会のために、私の婚約者が贈ってくれて……。ふふっ、私って愛されているわ。――それより、あなたのドレスこそ素敵よ。今日は一段と気合いが入っているじゃない」