「誰に何を言われても私は平気です。私は殿下の『影の護衛』。目立たない地味な容姿が丁度良いのです。それに、殿下にふさわしい心根の清い婚約者様を見つけるには、私の野暮ったい見た目は有効です」

「君自身が平気でも、僕は心配だ。君は一生、僕の影でいるつもりかい?」

「勿論です。殿下が私を不要だと仰らない限り、私はいつまでもお側におります」


 ルーク殿下は目を細めて嬉しそうに表情を緩めると「そうか――」と呟き、言葉を続けた。


「じゃあ、その一生分の責任を僕が取らなきゃいけないね」

「……? それは、一体どういうことでしょう?」

「まだ分からなくて良いんだよ。……今はまだ、ね。君の心が花開くまで、僕はゆっくり待つさ」

「花開く……? 何のことでしょう。殿下の仰ることの意味が、いつか分かるようになれるでしょうか」

「あぁ、きっとね。案外、その日は近いかもしれない」

 なぞなぞみたいな言葉に首をかしげるローズが、彼の想いを知るのはもう少し先のこと――。
 


 数年後。
 国民に沢山の祝福を贈られ、身も心も美しく成長した赤薔薇と、麗しの青薔薇が隣り合って咲き誇っている。


 『地味でダサくて残念』と馬鹿にしていた者達は、ようやく自らの愚かさと失言に気付いたが……時既に遅し。

 薔薇色の人生を歩むローズを見ながら、己の悲惨な人生を嘆くだけだった。