ランクアップしました

 現在、十三時五十分。私は瀬口さんが用意してくれた桜色の着物に着替えて和室にきていた。
 髪は自分ではセットできないため、彼にしてもらったけどそれも完璧だった。

 和室にはもう人数分の花器、花鋏、剣山が準備されている。すでに来ていた先生に今日はどこでも大丈夫だと言われて先生の近くに座った。
 この学校で行う華道は、西洋の花を積極的に活用している小原流だ。花の生け方として、花意匠・瓶花・盛花・花舞の四つがあることで知られている。今日は初回だから確か『盛花』をするんじゃないかと予想している。


「皆さん初めまして。華道の担当いたします。小原流師範の小原です。よろしくお願いします」
 美しい所作をする女性は家元の方だったらしい。そんな人に教えていただけるなんて光栄なことだわ。
「本日するのは、盛花です。盛花は、小原流が誕生した時に流祖の――」
 盛花の説明を丁寧にしてくださった小原さんは、まず自らがいけ始める。盛花とは、平たい器を用いて材料を盛るように面的な広がりを強調した生花のことをいう。
「……では今日はまず花の扱い方や花材の選び方を覚えていきましょう。立てるかたち、傾けるかたちを学ぶことで少ない花材で美しく生けることことができるようになります」
 基礎から入り、それをじっくり三十分学ぶと次は花を生ける。今日準備されている花の個性を生かして水盤に表現をする。これは花の個性がわからなければ美しくいけられない。だから自由のようだが、難しい。


 昔教わった『花は人の心である』という言葉を思い出す。確かまだお母様が元気だった頃の話だ。それを思い出しながら生けた。
 生けたその後は、生けた花を拝見する。これには作法がある。
「では、他の方の花を拝見していきましょうか。では、そうですね……四宮さん。どうぞ前へ」
 まさか自分が当たるとは思わなかったが、お母様に教わった時のことを思い出しながらまずは、畳一帖を隔てた位置に座り花に向かって一礼してから見る。次に全体の構成、花材の取り合わせ、花器、花台までを拝見すると花を生けた人に感謝を伝えて一礼をする……とこんな感時だろうと先生を見た。
「ありがとうございます。四宮さん、荒削りではあるけど作法は完璧ね。四宮さんは二級のシルバーにランクアップよ、おめでとう」
「ありがとうございます」
「担任の先生にこの紙を提出するとシルバーの宝石と交換できるわ」
 私はその紙を受け取ると、授業終了のチャイムが鳴ったので教室に戻るついでに職員室に寄って交換をした。そこで、瀬口さんも交換をしていて先生に「ペアでランクアップね」と言われて照れくさかった。