悲恋の大空

 そこからはなんかもう、トントン拍子で異様なほどにテンポが良かった。



[木之本の妹]
 「お姉ちゃん誰〜?」


[木之本の弟]
 「夏樹お兄ちゃんの彼女〜?」


[朝蔵 大空]
 「彼女じゃないです」



 めっ…………ちゃくちゃいる、子供が。



[木之本 夏樹]
 「う、うち兄弟多いんだよ! んで、俺が1番上の長男なんだ」


[朝蔵 大空]
 「へぇ」


[木之本の弟]
 「ねぇ! お姉ちゃんと夏樹お兄ちゃんが結婚したら、僕達叔父さん叔母さんになっちゃうね!」


[木之本の妹]
 「なっちゃうね!!」



 !?


 子供だからそう言うのも、今の時代だとセクハラって分からないよね……。



[木之本の母]
 「うちのバカ息子を、よろしくお願いします」


[木之本の父]
 「よっしゃ、孫だ〜〜!!!」



 木之本くんのご両親にも何故か気に入られて、いつの間にか付き合ってることにされてしまっていた。


 私も否定すれば良いものを、既にそんなことを言える空気じゃなくなっていた。



[木之本 夏樹]
 「1ヶ月記念おめでとう、そしてありがとう!」


[朝蔵 大空]
 「ありがとう」



 私達は今、夜景が見える高級レストランで食事をしている。



[木之本 夏樹]
 「お、おお、俺と! 結婚して下さい!!」



 そう言って木之本くんは、私に指輪と花束を差し出して来る。



[エキストラA]
 「おお、プロポーズ!」


[エキストラB]
 「あら、素敵〜♡」



 展開、早っ。





 カンカン♪ カンカン♪ カンカン♪





 チャペルの音が鳴り響く、え……私もしかして、《《結婚》》しちゃった??



[朝蔵 大空]
 「……」



 私の体は、純白のドレスに身を包まれている、そして手には豪華な花束。



[知らない人A]
 「きゃ〜、素敵よ〜」


[知らない人B]
 「幸せになれよー!!」


[知らない人C]
 「花嫁さんもっと笑顔ちょうだーい!」



 目の前には、たくさんの私の知らない人達……恐らく、木之本くんの友達か親戚の人達だと思う。



[木之本 夏樹]
 「みんなありがとーー!! 俺達、幸せになりまーーす!!!!」


[朝蔵 大空]
 「幸せになる…………」



 私は、隣にいる木之本くんには聞こえないように、小声でそう呟く。


 ……あれ、でも良いんだっけ?


 心身共に健康な夫と、たくさんの人に祝われる結婚。


 明るく裕福な義実家とご両親、安泰を約束された楽勝人生。


 女にとって、最高に幸せな状態……でも。


 こんな、私だけが幸せになる終わり方で良いんだっけ??



[十七男]
 「ぼく、じゅうしちなん!」


[三十三女]
 「わたし、さんじゅうさんじょ!」



 多い、多い、あまりにも多すぎる。


 この子達、みんな私の子供なの……?


 ──そしてふたりは、子宝に恵まれていつまでも幸せに暮らしましたとさ。


 【悲恋の大空】……おしまい。


 ……。



[朝蔵 大空]
 「って……おかしいでしょ!!」





 パチッ!!





 私は、自身の頬を思い切り叩く。
 




[???]
 『へぇ、考えうる限り至高のハッピーエンドだったのに』





 ……。



[朝蔵 大空]
 「痛っ」



 自分で叩いたはいいけど、ほっぺがジンジンと傷んでつらい。



[朝蔵 大空]
 「わ、私は今まで何して……?」


[アリリオ]
 「おはよう、お姫様!」


[朝蔵 大空]
 「へ? アリリオくん? え、なんで私アリリオくんに膝枕されてるの?!」



 目覚めると私は、アリリオくんの膝の上で寝ていた。



[アリリオ]
 「君、凄いね! やっぱり、君を選んで良かった! 君は、想像以上のポテンシャルの持ち主だよ!」


[朝蔵 大空]
 「な、なんの話ですか?」


[加藤 右宏]
 「茶番は終わりダ」


[アリリオ]
 「終わり?」



 私そっちのけで、ミギヒロとアリリオくんが話している。



[加藤 右宏]
 「アリリオ、見してやレ」


[アリリオ]
 「はーい」


[朝蔵 大空]
 「……?」



 アリリオくんが懐からタブレットような物を取り出し、明るくなった画面を私に見せてくる。



[アリリオ]
 「見えるかな?」



 そこに写し出されていたのは、複数の人間が身を寄せ合いながら、気絶しているように見える映像だった。



[嫉束 界魔]
 『…………』


[不尾丸 論]
 『…………』


[花澤 岬]
 『…………』



 最初は何かの映画のワンシーンかと思った、だけどそこに写っているのは、私がよく知っている人達で。



[朝蔵 大空]
 「これは! 嫉束くん達に、不尾丸くん達……先輩達まで!?」



 これは、生きているの? 死んでいるの?



[アリリオ]
 「大丈夫、眠っているだけさ。 怪我してるわけじゃないから、安心して」


[朝蔵 大空]
 「どう言うこと……この場所はどこ?」



 何故、私の大切な学友達はこんな冷たく暗い、見知らぬ場所で幽閉されているのだろうか。



[加藤 右宏]
 「お前の友達は預かっタ、返しテほしければオレ達の言うことを聞ケ」


[アリリオ]
 「そう言うこと」


[朝蔵 大空]
 「こんなの酷い、一体何が目的なの? 世界征服!?」


[アリリオ]
 「違う違う、ぼくらは世界をより良くしたいだけだよ〜」



 世界をより良く、ですって?



[朝蔵 大空]
 「訳が分からない。 どうして私の友達が、こんな目に遭わないといけないの?」


[アリリオ]
 「残念! どれだけ抗っても君はぼく達に従うしか、無いのさ」


[加藤 右宏]
 「大空、ココへ来て」



 ミギヒロが両手を広げて、私を迎え入れるようなポーズをとる。



[朝蔵 大空]
 「嫌だ! また私を騙して遊んでるんでしょ?! さっきの映像だって、きっと今流行りのAIフェイク動画よ! ママに言いつけてやるんだから!!」


[アリリオ]
 「おやおや……」


[加藤 右宏]
 「オイ! 離れていくナ!!」



 私は反対を向いて、遠くへ走っていく。


 私は今、どこに向おうとしているんだろう?



[朝蔵 大空]
 「え……」



 私の体が、段々と薄く透明になっていく、感覚もやがてぼやけていき、フラッとその場に倒れてしまった。



[朝蔵 大空]
 「どう言うことなの……」


[アリリオ]
 「あのね。 君は今、ほとんど死んでる状態なんだ」


[朝蔵 大空]
 「はっ?」



 気付くとアリリオくんが、道に横になっている私の隣に立っていた。



[朝蔵 大空]
 「体が……元に戻った?」



 体の感覚が戻った私は、とりあえず体を起こす。



[アリリオ]
 「これを見て!」



 見ると……ぽわぽわとした何かが、アリリオくんの手に握られている。


 青く優しく光る、温かみのある炎の玉がそこにあった。



[朝蔵 大空]
 「それは……?」


[アリリオ]
 「これはね、君の魂!」


[朝蔵 大空]
 「えっ!!? 私の!? よく分かんないけど、返してよ!!」



 私は、自分の魂だと言われるものに、無我夢中で手を伸ばす。



[アリリオ]
 「ダメダメダメ、返すわけないじゃん! ねっ、王子!」


[加藤 右宏]
 「そうダ」


[アリリオ]
 「分かったかな? 君の魂がここにある内は、君に自由は無いし、どこにも行けないの!」


[朝蔵 大空]
 「は……」



 私は、恐怖心で泣き出してしまう。



[アリリオ]
 「泣いてるの? でも、最初君が望んだことでもあるよね? 人として生きること全部捨てて、《《あの世》》で例のお兄さんと永遠に眠るつもりだったんでしょ?」



 えっ。



[加藤 右宏]
 「ソノ辺にしとけ、明日また話そう」


[朝蔵 大空]
 「……」


[加藤 右宏]
 「大空、立てるカ?」



 ミギヒロが、私の肩に触れてくる。


 その手を私は、ぱしっと叩いてミギヒロを睨みつける。



[加藤 右宏]
 「!?」


[朝蔵 大空]
 「そうだよ。 こうなったのも全部、ミギヒロが悪い!! 私はもう、生きるのも死ぬのも怖いの! なんで私に、生きる楽しさを教えたの?! 私にはあの人さえいれば、よかったはずなのに!!」


[アリリオ]
 「あ、キレた」


[朝蔵 大空]
 「こんな思いするなら、どうせ失うなら、つまらない人生のままでよかったよ! そしたら、なんの未練も無く死ぬことが出来たのに!!」


[加藤 右宏]
 「大空、泣かなイで……」



 人が悲しくなるのはきっと、幸せを知っているからだと思う。


 
[アリリオ]
 「んーっと……そろそろ、《《お迎え》》が来る頃だね」


[加藤 右宏]
 「……?」



 ──その時。



[悪魔?]
 「見つけましたぞ王子!」


[加藤 右宏]
 「ゲッ……」


[アリリオ]
 「ニヤリ」



 月下に複数の黒影が並ぶ、それらは明らかにこの世の者達ではなかった。



[加藤 右宏]
 「クソっ! アリリオ!! 大空を連れて逃げるゾ!!」


[アリリオ]
 「やなこった!」



 アリリオは、ミギヒロの命令に背く。



[加藤 右宏]
 「な……お前まさカ」


[悪魔]
 「さぁ、我々と共に魔界へ戻りましょう!!」


[加藤 右宏]
 「は、離せ!!」



 ミギヒロは悪魔達に捕えられ、じたばたする。



[加藤 右宏]
 「裏切ったな、アリリオ!」


[アリリオ]
 「ありがとう王子、これでぼくらの野望が叶えられそうだよ」


[悪魔]
 「開け! 魔界への扉よ!!」



 紫色のイナズマが飛び散るブラックホールに、ミギヒロが吸い込まれていく。



[加藤 右宏]
 「大空ー!!」



 ミギヒロが、私の名前を叫んで手を伸ばす。



[朝蔵 大空]
 「ミギヒロ!?」



 数秒後にブラックホールは消え、静かな夜道へとかえる。



[朝蔵 大空]
 「……ミギヒロ?」


[アリリオ]
 「さぁ! 邪魔者はみーんないなくなったね!」


[朝蔵 大空]
 「!?」


[アリリオ]
 「大体さぁ、王子も奥手過ぎるんだよ〜。 さっさと、食べちゃえばいいのにっ」


[朝蔵 大空]
 「な、なんの話?!」



 食べる……?



[アリリオ]
 「ほんじゃ、いただきまーす……ぱくっ」



 先ほどの青い火の玉、つまりは私の魂が躊躇い無くアリリオくんの口の中へ……。



[朝蔵 大空]
 「あーーー!!?」


[アリリオ]
 「モグモグ……」



 た、た、食べられちゃった、私の魂……。



[朝蔵 大空]
 「……」


[アリリオ]
 「えーっと……うん、完全に一体化するには一晩寝かせる必要があるんだよね〜。 てなわけで、ほいっ!」



 そう言ってアリリオくんは、私を抱きかかえたまま空高く飛んで行く。



[朝蔵 大空]
 「ちょっと!」


[アリリオ]
 「ぼくは紳士なので、姫をお家まで送っていきますっ!」



 あっという間に私は家まで送り届けられ、窓から私の部屋に侵入され、ベッドへと寝かされる。



[アリリオ]
 「はいっ、高速パジャマ早着替え〜♪ シュバババ!」


[朝蔵 大空]
 「わわわ!」



 目にも止まらぬ速さで、パジャマに着替えさせられた!!



[アリリオ]
 「ふふ、今夜はお疲れ様……ゆっくりおやすみ、ぼくのお姫様」



 額にキスを落とされる、そして私の意識もそこで落ちる……。


 ……。



[???]
 『ソ……様』



 ……ん?



[???]
 『ソラ様……』



 誰かが私の名前を呼んでいる。



[如月 凛]
 「おやすみのところ、すみません……」


[朝蔵 大空]
 「リンさん!?」


[如月 凛]
 「シー……静かにっ」


[朝蔵 大空]
 「はっ、ごめんなさい?」



 目を開けると、目の前にリンさんが立っていた。



[如月 凛]
 「あの悪魔は、少し前に部屋を出て西の方角へと飛んで行きました」


[朝蔵 大空]
 「リンさん大変なんです、アリリオくんに私の魂? を、食べられて……」


[如月 凛]
 「まったく破廉恥です」


[朝蔵 大空]
 「何が!?」



 私はされたことを、そのまま説明したまでで……。



[如月 凛]
 「ソラ様、私は貴女にあーしろだとか、こーしなさいとは言えません。 だけど、これだけは預けておきたかったのです」


[朝蔵 大空]
 「これは……?」



 リンさんから渡されたものは、水晶のような石が付いたチャームだった。



[如月 凛]
 「御守りのようなものです、気休めにしかならないと思いますが……」


[朝蔵 大空]
 「ありがとうございます……あの、ミギヒロ達は……アリリオくんは、何を企んでいると思いますか?」


[如月 凛]
 「私にも分からないんです。 アリリオ様とミギヒロ様の目的は、一緒ではなかった……今はそれしか」


[朝蔵 大空]
 「と、友達が誘拐されたんです! 助けて下さい!!」


[如月 凛]
 「ソラ様、はっきり申し上げます。 彼らを救うことが出来るのは、ソラ様……貴女にしか出来ません!」
 


 私にしか、出来ない?



[朝蔵 大空]
 「そんな……助けてくれないんですか?」


[如月 凛]
 「すみません。 私にこれ以上の干渉は許されません、私は天使なので」


[朝蔵 大空]
 「私はどうすれば……」


[如月 凛]
 「あの悪魔が戻って来る前に、私は行きます……では」


 リンさんは私に背中を向け、白い光の中へと消えて行った。


 ……。



[アリリオ]
 「やぁ、マイプリンセス! よく眠れたかな〜?」


[朝蔵 大空]
 「……」



 朝が来た。



[アリリオ]
 「さぁ今日からまた、朝蔵大空のつまらなくない人生の、新たな1ページが始まるよ〜!」


[朝蔵 大空]
 「ねぇ、アリリオくん」


[アリリオ]
 「なになに〜、どうしたの姫〜?」



 私は、今最大に気になっていることがあった。



[朝蔵 大空]
 「卯月くんはどこ?」


[アリリオ]
 「……」



 私がそう尋ねると、陽気そうだったアリリオくんの表情が、一変して不機嫌そうになった。



[アリリオ]
 「はぁ、まだあんな奴のことなんて気にしてるんだ?」


[朝蔵 大空]
 「卯月くんのことも、アリリオくんが誘拐したの?」


[アリリオ]
 「あーあ健気なこった、あんなことされたって言うのに」



 ……あんなこと?



[アリリオ]
 「あ、そっかそっか。 痛みも感じないほどにスパッと首切られちゃったもんね〜」


[朝蔵 大空]
 「首? ……!!?」



 鏡を見ると、私の首に確かに横一線傷跡のようなものが刻まれていた。


 何これ……?



[朝蔵 大空]
 「卯月くん……」



 今でも思い出せる、彼との大切な日々。





 ──『朝蔵さん』





 優しい声で私を呼んでくれる彼、貴方はこんな私に無償の愛を与えてくれた。


 だけどその愛を一度、自ら手放さそうした。


 これは、そんな私への罰だ。


 ぽたぽたと私の頬から、涙が流れる。



[朝蔵 大空]
 「みんなに、会いたいよ……」



 貴方のいない世界は、本当に退屈だ。





 「また会える日まで」おわり……。


第3傷「新緑」 〜完〜


 以上、13話(26部分)を()ちまして『悲恋の大空』の3章を終了させて頂きます。


 最後に、ここまで読んで下さった優しい読者様にお願いがあります。


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 頑張りますのでどうかこれからも、『悲恋の大空』をよろしくお願い致します!