悲恋の大空

[アリリオ]
 「えーと今、緊急で動画を回しています」



 配信者的なノリで突然、淡々と実況し始めるアリリオ。



[アリリオ]
 「某花火大会会場で……頭部が切り離された女子高校生の遺体が、発見されました〜」


[加藤 右宏]
 「ン?」


[朝蔵 夕唯]
 「ん……?」



 それを、ふたりは珍しそうに眺めている。



[アリリオ]
 「あーごめん、このネタ伝わんなかったぁ〜。 で……これ、どうする?」


[加藤 右宏]
 「とりあえズ。 人目の届かない場所に移動すっゾ!」



 ミギヒロは、大空の首から下を……アリリオは、大空の頭部を抱きかかえて持つ。





 ピカーーーン!!





[如月 凛]
 「貴方達〜〜〜! 何をやってるのですか〜〜〜!?」



 暗い空の中から光の輪と共に、リンが飛び出て来る。



[朝蔵 夕唯]
 「……」


[如月 凛]
 「おおっと……あ、貴方は……!?」



 凛が目の前の男を見て、ギョッとして立ち止まる。



[アリリオ]
 「ふーん……君が噂の、アサクラ ユイ さん?」



 アサクラ ユイ、青黒い頭髪に、真っ黒な目の青年。



[朝蔵 夕唯]
 「うん……人が死んだって言うのに。 みんな冷静だね」



 目は()わり、表情は眉ひとつ動かさない。



[加藤 右宏]
 「まぁナ」



 ミギヒロとアリリオが、ひとりの人間の死に動じることは無い。


 悪魔だったから。



[アリリオ]
 「ひとりを除いて……ね」



 アリリオは、とある人物のほうに視線を移す。



[如月 凛]
 「シン! 大丈夫ですか?」


[卯月 神]
 「……」


[如月 凛]
 「って……大丈夫なわけないですよね」



 卯月は、その場で膝を着いて返答が無い。


 瞳を閉じて、ただ静かに俯いている。



[如月 凛]
 「ソラ様……」



 木陰には頭部を切断され、動かなくなった大空が横たわっている。


 生命活動が止まり、冷えゆく肉の物体と化している。





 シュー…………ボッ……。





[如月 凛]
 「あっ!」



 リンが駆け寄ると、大空の胸付近から何かが捻り出てきた。


 その何かの正体は、" 青い火の玉 " だった、それをリンがそっと掬い取るのだ。



[如月 凛]
 「よかった、まだ温かい……」



 ホワホワと、心地好い温度の火の玉は、リンの手の中を細かく揺れる。


 リンは安堵した、けれど次の瞬間 ──。





 シュバッ……!!





[アリリオ]
 「もーらいっ!」


[如月 凛]
 「っ……ちょっ!?」



 アリリオが大空の魂を、軽快な身のこなしでリンから奪い取る。



[加藤 右宏]
 「アリリオ、ナイスゥ〜」


[アリリオ]
 「〜♪」



 大空の魂は、悪魔陣営の元へと奪われてしまった!



[如月 凛]
 「酷すぎます! シンに、人殺しをさせるなんて!!」


[加藤 右宏]
 「今更何言ってんダ? ンなの、《《最初から》》ダろ」


[アリリオ]
 「呪いを完成させるには、天使に殺人をさせなければならない。 そうだったよね、王子?」


[加藤 右宏]
 「あア」


[如月 凛]
 「は……」



 一切悪びれることの無い悪魔に、リンは言葉を失ってしまう。



[朝蔵 夕唯]
 「……」



 夕唯は何も言わず、卯月の肩に手を置く。



[卯月 神]
 「……」


[朝蔵 夕唯]
 「じゃ……」


[加藤 右宏]
 「ドコへ行くんダ?」



 夕唯が草の上に落ちていた、大空の簪を拾い上げる。



[朝蔵 夕唯]
 「……在るべき所へ帰る」



 そう言い残して夕唯は、簪を握ったまま暗闇の中へと消えて行ってしまった。



[加藤 右宏]
 「相変わらズ、さっぱりしてるナー!」


[アリリオ]
 「感情が無いもんね、彼。 アサクラユイ、興味深い……」



 夕唯が消え、重苦しい空気が少しマシになる。



[卯月 神]
 「……」


[如月 凛]
 「さぁシン、貴方も。 《《行くべき》》所へ」


[卯月 神]
 「……はい」



 リンが卯月の手を取り、卯月が立ち上がったと同時に引き連れて行く。



[加藤 右宏]
 「お別れの言葉は?」


[卯月 神]
 「……」



 ミギヒロの言葉に、卯月は足を止めてしまう。



[如月 凛]
 「さぁ、急ぎましょう」


[アリリオ]
 「あれれ? 見ていかないの? 《《蘇生》》」


[如月 凛]
 「貴方達で勝手にやって下さい、シンをこれ以上追い詰めないで。 全部知ってるくせに」



 リンは冷たい目でアリリオを見る、その後は振り返ることも無く、卯月を連れて光の輪の中に消えた。



[アリリオ]
 「あはは、怒られちゃった」


[加藤 右宏]
 「ヨシ、やるゾ」


[アリリオ]
 「はーい」



 アリリオは先ほどの火の玉を両手で持ち、大空の死体の傍へと歩き出す。



[アリリオ]
 「フフフ」



ミギヒロの死角では、アリリオは不敵な笑みを浮かべていた。



 ……。


 その頃、男子達は……。



[刹那 五木]
 「ふぅ、ここまで来れば安全かな?」


[巣桜 司]
 「はぁ、はぁ、つ、疲れたっ……」



 巣桜は膝を抑えて、肩で息する。



[笹妬 吉鬼]
 「なんでこうなるんだよ」


[狂沢 蛯斗]
 「この人のせいです!」



 狂沢が、嫉束を指差す。



[嫉束 界魔]
 「なんで僕!?」



 男子達は、発情したモブ女子達から、逃げて来ていた。



[狂沢 蛯斗]
 「貴方が女性を誘惑するから、会場が大混雑になったんです!」


[嫉束 界魔]
 「してないよ! 誘惑なんて!!」



 狂沢に責任を追及された嫉束は、急いで否定しようとする。



[仁ノ岡 塁]
 「フッハッハッハーっ、我の魅了スキルはやはり最強だな」


[原地 洋助]
 「はぁ……はいはいっ」



 ナルシズムを炸裂させる仁ノ岡を、原地が軽く受け流す。



[狂沢 蛯斗]
 「おや? 彼らは……」


[刹那 五木]
 「おー! 1年ズじゃーん」



 狂沢と刹那が、離れた先にいる仁ノ岡と原地に気付く。



[原地 洋助]
 「うわ」


[仁ノ岡 塁]
 「むむっ、我らのことか?」



 2年生組が、仁ノ岡と原地の元へと駆け寄る。



[原地 洋助]
 「あっ……!」



 すると突然、原地が何かに気付き辺りを見渡し始めた。



[巣桜 司]
 「ど、どうしたんですか?」


[仁ノ岡 塁]
 「洋助?」


[原地 洋助]
 「論がいない!!」



 サンコイチのリーダーである不尾丸が、この場に居ない。



[嫉束 界魔]
 「えっ!?」


[笹妬 吉鬼]
 「友達か?」


[嫉束 界魔]
 (あの生意気な原地くんが、見たこと無い焦り方してる……)



 イメージとは違う、原地の見たこと無い姿に、嫉束は驚いていた。



[原地 洋助]
 「そんなっ……」


[仁ノ岡 塁]
 「と、途中ではぐれてしまったのか」


[刹那 五木]
 「ん? ねぇ〜、電話してみたら?」



 原地は刹那の声が聞こえていないようで、夢中で付近を歩き回り、時々立ち止まって遠くを見つめる。



[仁ノ岡 塁]
 「待ってくれ〜洋助!!」



 仁ノ岡が原地の後に続き、走り出す。



[刹那 五木]
 「あれれ……?」


[嫉束 界魔]
 「ねぇ! 僕らも一緒に、探してあげようよ!」


[狂沢 蛯斗]
 「……緊急事態のようですね」



 仁ノ岡達を追い掛けるように、嫉束と狂沢は他を3人を置いて行く。



[笹妬 吉鬼]
 「おい、界魔! ……はぁ、やれやれ」


[巣桜 司]
 「あっ! お、置いてかないで下さい、狂沢く〜ん!!」



 笹妬と巣桜はふたりの背中を追い掛け、走って行ってしまった。



[刹那 五木]
 「みんな行っちゃった……へへ、面白い! おれも行こ」



 ── 上空に、黒い影が2つ並ぶ。



[加藤 右宏]
 「間抜けな奴らだゼ」


[アリリオ]
 「さぁ。 サンプル達には、1箇所に集まってもらうよ」



 ……。



[古道 大悟]
 「はぁ〜、やっと撒けた〜」


[土屋 遊戯]
 「もうっ! この、ぼくに長距離を走らせるって、どう言うこと!!? んーもっ、マジ有り得ないんだけど!!!」


[花澤 岬]
 「静かにしなさい」



 一方その頃、別の所に逃げて来ていた上級生達。



[土屋 遊戯]
 「あー!! ちょっと待って、なっちゃんがいないよ!!?」


[古道 大悟]
 「あ、ほんとだ。 別の道に逃げたのかな?」



 そこには、音乃の姿だけが無かった。



[花澤 岬]
 「いや、あの人は運動不足だろうから。 恐らく、奴らに捕まったんだろ」


[古道 大悟]
 「えっ!? やばいじゃん?!」


[花澤 岬]
 「別にやばくないだろ」


[古道 大悟]
 「み、岬はカイチョーが心配じゃないの?」


[花澤 岬]
 「全く」



 古道は、音乃のことを全く心配しない花澤に、困惑する。



[土屋 遊戯]
 「おい! お前ら、なっちゃんを助けに行くのを手伝え!!」


[古道 大悟]
 「ウッ……あんな大勢の女子達の所に、また戻るの……?」



 古道は青ざめた表情のまま、肩を落とす。



[土屋 遊戯]
 「これは命令だぞ! 絶対に従ってね! さもないと退学だからな!!」


[花澤 岬]
 「チッ、仕方無い。 戻るぞ、大悟」


[古道 大悟]
 「え……う、うん!」


[土屋 遊戯]
 「疲れた!! おんぶしろ!!!」


[古道 大悟]
 「え、え〜?」



 断れない古道は、土屋を自分の背中に乗せる。


 そして、音乃を助けに行く為、3人は来た道を戻って行った。



[アリリオ]
 「よし、こっちも行ったね」


[加藤 右宏]
 「残りのふたりは?」


[アリリオ]
 「えーっと……こっちみたい!」


[加藤 右宏]
 「ヨ〜し、急げ〜!!」



 ……。


 この頃の不尾丸……。



[不尾丸 論]
 「車椅子も失くしたし、塁と洋助はオレを置いてくし、ガチで疲れたし、最悪」



 フラフラの足で壁を伝って、駅前を歩いていた不尾丸。



[不尾丸 論]
 「そして、マジで最悪なのが……」





 ぐーぎゅるるるるる……。





[音乃 渚]
 「お腹が空いたので、何か食べませんか?」


[不尾丸 論]
 「この人が一緒だって言うねぇ……」


[音乃 渚]
 「ん? 何か言いました?」



 不尾丸の小言は、音乃の耳には届いていない。



[不尾丸 論]
 「いいえ♪ ぼくは何も言ってませんよ、会長さん♪」


[音乃 渚]
 「……そうだ!!」


[不尾丸 論]
 「!?」



 音乃はいきなり、不尾丸の前で腰を下ろす。



[音乃 渚]
 「論!」


[不尾丸 論]
 「何?」


[音乃 渚]
 「ワタシの背中に乗って」


[不尾丸 論]
 「は……? いい……」



 不尾丸は後ろに退き、音乃の提案をやんわりと断る。



[音乃 渚]
 「どうして? 疲れたのでしょう?」



 音乃は不思議そうな顔をして、不尾丸の顔を見る。



[不尾丸 論]
 「疲れたとしても、あんたの背中には乗らないよ」


[音乃 渚]
 「遠慮しないでっ!」


[不尾丸 論]
 「く……来るなぁ」



 音乃は、背中を向けたまま不尾丸に迫る。



[不尾丸 論]
 「ちょっ……」


[音乃 渚]
 「さ、車椅子さん探しに行きましょう!」



 不尾丸は音乃に、力ずくで背中に背負われてしまった。



[不尾丸 論]
 「おい! マジで要らねぇってそう言うの!! 降ろせよ!」


[音乃 渚]
 「暴れない♪ 暴れない♪」



 不尾丸は、本気で音乃を拒絶する。



[発情メスA]
 『きゃあ〜♡ 何あれ!!♡』


[発情メスB]
 『うお♡ おにショタ最高〜♡』


[発情メスC]
 『あーん♡ あの間に挟まりたいわぁ♡』



 その時、嫌らしい視線がふたりに集まる。



[不尾丸 論]
 「!!」


[音乃 渚]
 「おや?」



 発情した女子達は、不尾丸達の周りを囲み、逃げ道を塞ぐ。



[不尾丸 論]
 「やばい……!」


[音乃 渚]
 「まぁ……困りましたねぇ」



 焦る不尾丸、呑気な音乃。



[発情メスD]
 『捕まえちゃう!♡』


[不尾丸 論]
 「もうダメだ、終わった」



 ── と、不尾丸が絶望したその時。



[???]
 『ちょっと待ったーーー!!』





 「オータムフェス」おわり……。