[二階堂先生]
 「んじゃ、ばいなら☆」





 ざわざわざわ……。





[朝蔵 大空]
 「卯月くん、今日バイトだったけ?」


[卯月 神]
 「はい、そうですよ」


[木之本 夏樹]
 「おいっ!!」


[大空&卯月]
 「……っ!!?」



 帰りのホームルーム後すぐ、皆んなが部活に行く準備やら帰宅の雰囲気でいる時だった。


 木之本くんが私達の元まで駆けて来たと思ったら、いきなりの大声。


 なになに、怖い!



[木之本 夏樹]
 「俺はもう我慢出来ねぇ! お前らさぁ! いい加減に付き合ってるって言えよ!」



 木之本くんのせいでクラス中の注目が私と卯月くんに集まる。



[朝蔵 大空]
 「木之本くん! あの……ちょっと」



 わ、私は一体なんて言えば……?



[卯月 神]
 「ゴクリ……」



 そばに居る卯月くんも焦っている表情を見せている。



[文島 秋]
 「さぁて、どうなるかな」



 突然の事に、私は目を泳がせながら戸惑っていた。



[男子A]
 「おっ! んじゃ手始めにお前らふたり、キスしてみろよー!」



 クラスの男子達も横から面白おかしく茶化してくる。



[木之本 夏樹]
 「なっ!?」



 顔を真っ赤にする木之本くん。


 な……なんで貴方が顔を赤くするの?


 き、き、き、キスって!!


 ここで……!?



[卯月 神]
 「……」



 卯月くんはなにも言わないし、ここは私がなんとかこの場を収めないと!



[朝蔵 大空]
 「わ、私ちょっと御手洗に……」


[卯月 神]
 「はぁ……」



 横からバカデカい溜め息が聞こえた。



[朝蔵 大空]
 「……?」


[卯月 神]
 「言いますけど。 僕らの仲に、貴方が何か関係ありますか?」



 えっ!?


 卯月くん、めちゃくちゃはっきり言うじゃーん。



[文島 秋]
 「おぉ」


[木之本 夏樹]
 「そ、それは……」



 返せる言葉が無い様子の木之本くん。


 私も釣られて口を閉じてしまう。



[卯月 神]
 「……?」


[木之本 夏樹]
 「お、お前らが認めてくれないと、こっちだって……」
 

[朝蔵 大空]
 「……?」



 木之本くん、何が言いたいんだろ?



[卯月 神]
 「……帰ります」


[文島 秋]
 「……」



 あっ、卯月くん出て行っちゃった。



[木之本 夏樹]
 「ごめん」



 木之本くんが私に謝ってくれる。



[朝蔵 大空]
 「えと……大丈夫」



 私と木之本くんの間に気まずい空気が流れ、私も沈黙していた。



[永瀬 里沙]
 「おいおい暗い暗い!」


[朝蔵 大空]
 「あっ、里沙ちゃん」



 里沙ちゃんが私の肩に手を置いて、木之本くんの方に視線を向ける。



[木之本 夏樹]
 「な、なんだよ」


[永瀬 里沙]
 「あんたさー、まだ諦めてなかったの?」


[木之本 夏樹]
 「な、何がだよ」



 木之本くんは額に汗をかいて狼狽える。



[文島 秋]
 「とぼけんなって木之本!」
 


 文島くんが少し離れた席から声をあげる。



[木之本 夏樹]
 「ん、んだてめぇ」


[文島 秋]
 「ねぇねぇ」



 真剣な顔で文島くんが私の所まで歩いて来る。



[朝蔵 大空]
 「なぁに?」


[文島 秋]
 「朝蔵ちゃんもさ、ほんとは不満に思ってんでしょ?」


[朝蔵 大空]
 「……卯月くんの事?」


[文島 秋]
 「木之本もこんな感じだしさ……」


[木之本 夏樹]
 「あん?」



 木之本くんが文島くんを威嚇して睨みつける。



[文島 秋]
 「ふたりって…………朝蔵ちゃんは、彼と付き合ってて大丈夫なの?」


[朝蔵 大空]
 「それはっ」



 どうしよ、文島くんに直接聞かれた。


 文島くんってなんだろう、特有の圧があるから。


 私、本当の事話してしまいそう……。



[永瀬 里沙]
 「ちょっとちょっとー、文島くんまでやめなってー」



 里沙ちゃんが私と文島くんの間に割って入る。



[朝蔵 大空]
 「里沙ちゃんっ……」


[文島 秋]
 「……」


[永瀬 里沙]
 「ふたりにはふたりのペースがあるの。 ね? 大空」


[朝蔵 大空]
 「う、うん」



 悔しいけど、文島くんの言う通りだ。


 私が卯月くんに思ってる不満。


 それは──。


 ……。



[朝蔵 千夜]
 「アイス食べよ〜」



 パタパタと足を鳴らしながら、お兄ちゃんが冷凍庫に駆け寄る。



[朝蔵 千夜]
 「あれっ? 無い!」


[朝蔵 大空]
 「どうしたの?」



 私はソファからお兄ちゃんの様子を伺う。


 真昼はテレビを見ている。



[朝蔵 千夜]
 「アイスが無い!」


[朝蔵 大空]
 「そ、そう……」


[朝蔵 千夜]
 「真昼食べたでしょ!!」



 お兄ちゃんがテレビの前に立ち、真昼の邪魔をする。



[朝蔵 真昼]
 「食べてねぇわ、退()け」


[朝蔵 千夜]
 「んもー! 食べたかったのにー!!」



 そう言えばさっきミギヒロが……。


 いや、これは言わないでおこう。


 面倒臭くなりそうだし。



[朝蔵 真昼]
 「散歩行って来る」



 真昼がテレビを電源を消し、ソファから立ち上がる。



[朝蔵 大空]
 「じゃあ私も行こうかな」



 運動不足だし、"合宿"の為に今から体力つけておかなきゃ……。



[朝蔵 千夜]
 「あー!待ってぇー!お兄ちゃんも行く〜」



 私達は外に出る用意をし、夜の散歩へと出掛ける。



[朝蔵 千夜]
 「合宿かぁ、懐かしいなぁ」



 お兄ちゃんも土屋校の卒業生、こう言う時に話が合うのだ。



[朝蔵 大空]
 「うーん、でも面倒臭いよー」


[朝蔵 千夜]
 「あの合宿ってさ、2年と3年が親交を深める為にあるみたいなもんで……」


[朝蔵 大空]
 「ふーん、そうなんだ。 私、3年で知り合いひとりもいないよ」



 私、3年生で名前分かるのはうちの生徒会長の音乃(おとの)(なぎさ)先輩しか知らない。



[朝蔵 千夜]
 「だから、仲良くなる為にやるんだよ」


[朝蔵 大空]
 「あ、そっか」


[朝蔵 千夜]
 「うん、大空も歳が上の人と関わるの、慣れといた方が良いよ。 大人の魅力にハマっちゃえ〜♡」



 お兄ちゃんが指でハートを作ってキメ顔をする。



[朝蔵 真昼]
 「きも」


[朝蔵 大空]
 「も〜! お兄ちゃん何言ってんのー」



 私には卯月くんがいるっつーの。


 て言うか卯月くん、そろそろ私達が付き合ってる事皆んなに言ってほしいな……。


 って言っても、私も言うタイミングと勇気が無くて誰にも言ってないけど。



[朝蔵 千夜]
 「あはは! そうそう! 間違っても、同い歳のあいつの事なんか好きにならないようにね……♪」


[朝蔵 大空]
 「……?」



 お兄ちゃん、あいつって誰の事言ってんだろ。



[朝蔵 大空]
 「ん?」



 橋を渡っている時だった。


 川の方に見知った人影が見えた気がした。



[朝蔵 千夜]
 「ん、大空?」



 立ち止まる私にお兄ちゃんが声を掛けてくる。



[朝蔵 大空]
 「あ、ごめん! さっき行ってていいよー」


[朝蔵 真昼]
 「千兄〜、コンビニあるけど寄ってく?」


[朝蔵 千夜]
 「あっ! 寄る、寄る〜」



 コンビニ目掛けて先を進む真昼とお兄ちゃん。


 私は川の方が気になって、下まで降りてみる事にした。



[朝蔵 大空]
 「…………卯月くん!?」


[卯月 神]
 「くしゅんっ」



 う、卯月くんが川の中に入ってる。



[卯月 神]
 「……あ、朝蔵さん?」



 気付いた卯月くんがこちらに振り返る。



[朝蔵 大空]
 「キャーー!!」



 私は目の前の光景に悲鳴をあげた。



[朝蔵 大空]
 「卯月くん! 前! 前隠して!!」


[卯月 神]
 「ん? あ……」



 な、なんで卯月くん、全裸で川なんかに入ってたの〜?


 卯月くんおかしいよ!!!



[朝蔵 大空]
 「卯月くん何やってんの!?」


[卯月 神]
 「あ、えと、これは……て、天使の力を使わず人間の生活に慣れようと思ってました」


[朝蔵 大空]
 「は?」



 か、川に全裸で入る事が人間の生活??


 何千年前の話をしてるの……?



[卯月 神]
 「……」



 卯月くん、何も着てないのに全然恥ずかしくなさそうだけど……。



[朝蔵 大空]
 「と、とりあえず早く服着ようよ卯月くん!」


[卯月 神]
 「わ、分かりました…………あっ」



 自分の服を探している様子の卯月くん。



[卯月 神]
 「服が無い……」


[朝蔵 大空]
 「えっ!?」



 大変!


 きっと川に流されちゃったんだ!


 このままじゃ卯月くん不審者だよ!


 補導されちゃうよ〜!



[朝蔵 大空]
 「ちょ、ちょっと私近くで服買ってくるからもっかい川入ってて!!」


[卯月 神]
 「えっと……」


[朝蔵 大空]
 「!?」



 あれ、卯月くん服着てる?


 いつの間に……?



[朝蔵 大空]
 「あれ!? 服着てるじゃん」


[卯月 神]
 「あぁ、魔法で」


[朝蔵 大空]
 「最強か?」


[卯月 神]
 「あ、また魔法を使ってしまった……」



 何故かしょんぼりしている卯月くん。



[朝蔵 大空]
 「もー、風邪ひかないようね? 次やってたら私、怒るよ!」


[卯月 神]
 「す、すみません」



 私は階段を上がり、また橋の上まで戻る。


 卯月くんの裸……。


 なんと言うか、特に言う事も無いようなものだったな。



[朝蔵 大空]
 「あ、今日も"アレ"送るから!」



 私は橋の上から卯月くんにそう声を掛けた。


 こちらに振り向かないから、多分私の声は聞こえてない。


 私は言い直す事はせず、お兄ちゃん達の後を追った。


 ……。




[加藤 右宏]
 「今日から一緒に寝るのはやめるんダぞ」


[朝蔵 大空]
 「じゃね」



 と言って枕を持って私の部屋から出て行くミギヒロ。


 私は机に向かって漫画を開く。





 数十分後……。





[朝蔵 大空]
 「ん?」



 部屋のドアが開けられたかと思ったら。



[加藤 右宏]
 「うーン……」



 ドアの隙間からミギヒロが顔を出した。



[朝蔵 大空]
 「あらミギヒロ、まだ起きてたの?」


[加藤 右宏]
 「お前こソ」


[朝蔵 大空]
 「で、何?」



 早く漫画の続きが読みたい。



[加藤 右宏]
 「ひとりジャ眠れないんだぞ」


[朝蔵 大空]
 「……」



 ミギヒロが勝手に私のベッドにダイブする。



[朝蔵 大空]
 「……はぁ」



 私は読んでいた漫画を閉じ、証明を消す。


 私もベッドに入り、横になる。



[朝蔵 大空]
 「……」



 横で寝ているミギヒロに背を向け、ケータイを(いじ)る。


 私の卯月くんに対しての不満、それは……。


 《《報告書》》。


 今日あった事、一日の生活の流れ。


 誰とどんな会話をしたか、相手はどんな人か、行動も何もかも。


 ……全部、卯月くんに報告しなくてはならない。



[朝蔵 大空]
 「……よし、送信」



 メールで卯月くんに報告文を送る、別にそれほど大変な訳じゃない。


 だから特に拒絶もしてない。


 言いたくない事は黙っとけば良いし。


 報告書を送った後の卯月くんからの返信は送られてきた事は無い。


 どうしてこんなものが必要なのか、卯月くんに聞いた事もある。


 だけど彼は答えてくれない。


 よく分からないけど、付き合うってこう言う事?



[加藤 右宏]
 「ンー、眠いんだゾ……」



 ……これが普通なの?


 周りのカップル、皆んなやってる事なの?


 怖くて里沙ちゃんとかには相談もしてない。


 なんとなく里沙ちゃんが卯月くんに怒りそうな感じがするから。



[加藤 右宏]
 「ンンン、もう食べられないんだゾ……」



 こうやってミギヒロが隣で寝てる事も卯月くんには言ってないし、絶対言わないつもり。


 別に卯月くんに命令されてる訳ではないけど、なるべく卯月くんの前では、他の男の子と喋らないようにしてる。


 それで卯月くんが安心するなら良いやって思ってるけど。


 ねぇ卯月くん。


 そんなに、不安?





 終わり……。