その日の夜、家族で夜ご飯を食べようとしていた時だった。


 千夜お兄ちゃんはと言うと、この時間はどこかに出掛けていた。


 そして私の隣に真昼、その向かいにお母さんが座っているのだが、その隣にあとひとり人間……と言うか悪魔がひとりが足りない。



[朝蔵 大空]
 「あれ?ミギヒロは?」



 私はそこにミギヒロがいない事に気付く。


 もう食事が食卓に並んでいると言うのに、ミギヒロがリビングにやって来ない。



[朝蔵 葵]
 「あらほんとね……どうしたのかしら?」



 ご飯の時間に食いしん坊のあいつが来ないなんて珍しい。


 そして隣に座っている真昼が思い出したかのように……。



[朝蔵 真昼]
 「そう言えば、靴が玄関に無かったね」


[朝蔵 大空]
 「えー!そうなの?」



 靴が玄関に無い、と言う事はまだミギヒロは家にも帰って来ていない?



[朝蔵 葵]
 「嘘〜!もう外も暗いのに……」



 お母さんも心配しているようだった、だって私も心配してる。



[朝蔵 真昼]
 「外食してるとか?」



 私達に対して真昼はこんな時でも冷静だ。


 外食?でも夕飯までには戻りなって言ったのに。



[朝蔵 大空]
 「ご飯あるのに」


[朝蔵 葵]
 「それならそれで良いけど……心配ね」



 よくないよ!


 あいつめ、せっかくお母さんが美味しいご飯を作ってくれたのに、自分は外で食べてくるとか許されるはずがない!


 そう言えばあいつ、レストラン(がい)の方に向かってったな……。



[朝蔵 大空]
 「もう!私、レストラン街の方見に行って来るわ!」



 私はミギヒロを探しに行こうと椅子から立ち上がる。



[朝蔵 葵]
 「あ、ちょっと大空!」


[朝蔵 真昼]
 「まあすぐ帰って来るでしょ」


[朝蔵 葵]
 「もう……そうなら良いんだけどね」



 ……。



[朝蔵 大空]
 「どこ行ったし、あいつ……」



 私は近くのレストラン街に向かって歩いていた。



[朝蔵 大空]
 「もう!どこ?」



 行き交う人、人集りを見ていくが、ミギヒロらしい人は見つからない。



[朝蔵 大空]
 「……はぁ」



 ミギヒロめ、ほんと迷惑な悪魔。


 人を心配させるんじゃないわよ。


 でも、本当に見つからない……どうしよう。


 その時だった。



[ナンパ男A]
 「お姉ちゃん♪」



 『お姉ちゃん』と言う声が聞こえる、でも真昼の声ではない。



[朝蔵 大空]
 「え……」



 誰かに呼び掛けられたような気がして、後ろを振り向く。


 派手な男の人達が私をニタニタとしたいやらしい目で見ていた。


 ま、まさか私に話し掛けてないよね?


 私は気付かなったフリをして前を向き直し、また歩いて行く。



[朝蔵 大空]
 「……」


[ナンパ男A]
 「ちょーい待ってよー」



 ひとり、男が私を追っ掛けて来て……。



[朝蔵 大空]
 「ひゃっ……!?」



 私の肩に手を置いて来た。


 肩に他人の手の感触が、気持ち悪い……。


 びっくりして私は後ろを振り向く。



[ナンパ男B]
 「へぇ、可愛い声出すじゃーん」



 なっ……。



[朝蔵 大空]
 「な、なんですか!?」



 男達の言動に苛立って大きな声が出てしまう私。



[ナンパ男A]
 「なんか探してんでしょ?俺らが一緒に探してあげるから、一緒に行こうよー」


[朝蔵 大空]
 「……は?」



 怖い、逃げたい。


 だけど私の足は恐怖で動かなかった。


 その代わりに、気付いたら私は……。



[朝蔵 大空]
 「い、嫌っ!!」





 パチンっ!!!





[ナンパ男A]
 「痛っ!!」



 手が出ていた。


 私の手が目の前の男を平手打(ひらてう)ちしたのだ。



[朝蔵 大空]
 「あっ……ごめっ……」



 こ、こんな事するつもり無かったのに。



[ナンパ男A]
 「痛ってぇな……やってくれたね、君」



 男は自分の頬を手で押さえる。



[朝蔵 大空]
 「そのっ、ご、ごめんなさい……」



 あーもう私の馬鹿!



[一般人A]
 「なに?暴行?」


[一般人B]
 「何やってんだあれ……」



 これじゃ私が悪い事になる!


 道行く人、誰もが見て見ぬふりをして誰も私を助けてくれない。



[ナンパ男C]
 「まあまあ、謝罪はソッチでしてもらえると嬉しいな?」


[ナンパ男B]
 「おっ!そうだな、そうしようぜ!」



 面白可笑しく笑いだす男達。



[朝蔵 大空]
 「え?」



 男達は全員、ある建物の方を見ている。


 私もそれを見た、ゾワッとした。



[朝蔵 大空]
 「えっ……」



 あれって……ホテル?"大人"の……。
 

 嘘でしょ?


 こんな事ってほんとにあるの?



[ナンパ男A]
 「着いて来てよ」


[朝蔵 大空]
 「嫌っ……」



 すると男達が私の周りを囲み、私をホテルの方へと誘導して行く。


 背中を押され、腕を引っ張られ、私は抵抗が出来ない状態。


 凄く強い力、痛い。


 ──大人の男の人。


 助けて。


 助けて。


 助けて。


 助けてよ。



[一般人A]
 「ちょっと、あれヤバくない?」


[一般人B]
 「警察呼んだ方が…………って、え!?」



 どよめく周囲の人達。



[一般人A]
 「何?」


[一般人B]
 「そ、空から人が!!」


[一般人A]
 「は!?」



 誰か助けて!!!


 その時だった。



 ──「ちょおっと待っターー!!」



 いよいよホテル内に連れ込まれると思った時、頭上から何やら聞き覚えのある声が。



[ナンパ男C]
 「あ?なんだ?」


[ナンパ男B]
 「なんか聞こえたぞ!」


[ナンパ男A]
 「あ……え?えっ?」



 男達が上に何かがいる事に気付いて唖然としだす。


 ……あれ?あいつは。



[朝蔵 大空]
 「ミギヒロ!!」


[加藤 右宏]
 「大空ー!!」



 私はあんたを探してたのよ!



[朝蔵 大空]
 「あの……助けて……」



 私は空に浮かんでいるミギヒロに助けを求める。


 その近くの人も飛んでいるミギヒロに大注目!?



[一般人C]
 「ゆゆゆゆゆ幽霊だ!!」


[一般人D]
 「いや!どっちかって言うと未確認生物だろ!」



 あいつ、結構目立っちゃってるみたいだけど良いの?


 てか、マジで今は早く助けて!


 私、大人の階段登っちゃうよ。



[加藤 右宏]
 「ケダモノめー!人間は醜い〜」



 ミギヒロがナンパ男どもを捉える。



[ナンパ男A]
 「な、なんかあれが俺達の事見てる気がするんだけど……」


[ナンパ男C]
 「め、めっちゃ敵視してるね」


[ナンパ男B]
 「な、なぁ逃げた方が良くないか?」


[ナンパ男A]
 「あ、あぁ……チッ、楽しめると思ったのによ」



 私の体を離してあっさりどこかへ走り去って行く男達。


 ミギヒロを恐れて逃げて行ったのだ。



[朝蔵 大空]
 「た、助かった……?」



 ナンパ男達からやっと解放された私。



[加藤 右宏]
 「大空〜!」



 ミギヒロが私に向かって空中から降りてくる。



[朝蔵 大空]
 「あ、あんた……」


[加藤 右宏]
 「ん?」





 ザワザワ……ザワザワ……。





 周りの人、皆私達の事を見てる!


 み、ミギヒロが空を飛んでからだ!



[加藤 右宏]
 「ヤベェ、大空!一旦ここから離れるゾ!!」



 そう言ってミギヒロは私に近付いて来て……。



[朝蔵 大空]
 「あ、ちょちょ……」



 お、お姫様抱っこだ!!


 初めてされた!



[加藤 右宏]
 「行き先は、近くの公園まで〜!」



 その瞬間、ミギヒロはビュンっと体を浮かせて飛んで行く。


 夜の高い高い空を飛んで行く。



[朝蔵 大空]
 「こ、怖い〜!!」



 高い所が基本苦手な私は涙目になる。



[朝蔵 大空]
 「し、下が……こ、ここから落ちたら……死ぬ」



 私は下を見てしまった。



[加藤 右宏]
 「お、おい!落とさないカラしっかり捕まってロ!」
 

[朝蔵 大空]
 「は、はい……」



 私はミギヒロに言われた通り、捕まろうとミギヒロの首にしがみつく。



[朝蔵 大空]
 「はぁ……」



 最悪、なんでこんな事になるのかな?



[加藤 右宏]
 「でも見てみろよ」


[朝蔵 大空]
 「なによ?」



 私は顔を前に向ける。



[朝蔵 大空]
 「……へぇ」



 上空から見る街の夜景?って言うのかな?眩しい光がいくつも輝いていた。



[加藤 右宏]
 「人間は愚かな奴が多いガ、この景色だけは、良いヨナ」


[朝蔵 大空]
 「そ、そうだね」



 綺麗、だけどやっぱり怖くて、すぐにまたミギヒロの胸に顔を(うず)めて、私は何も見ないようにした。
 


[朝蔵 大空]
 「あ……着いた?」



 私達が降り立った先は近所の公園。



[朝蔵 大空]
 「あぁ……なんか気持ち悪……」



 乗り物酔いってやつかな?


 まあ色々ありすぎてしんどくなった。


 私達は公園にあったブランコに座る。



[加藤 右宏]
 「大丈夫カー?」


[朝蔵 大空]
 「なんか、トラウマになったわ」


[加藤 右宏]
 「ウン……」



 ひとりであんな所通るのってやっぱり危ないんだね。


 こんな事なら真昼にも一緒に来てもらえば良かった。


 いや!真昼こそ襲われてたから家に置いて来てやっぱ正解!


 ま、まあその前に私が大変な目にあわされそうだったんですけど……。



[朝蔵 大空]
 「あーあ、あそこあんな治安悪かったっ?あー、男運無いってやつかしら……」


[加藤 右宏]
 「……」


[朝蔵 大空]
 「な、何黙ってんのよ?」



 しかも表情、妙に真剣だしちょっと怖いんですけど?



[加藤 右宏]
 「その事なんだけど」


[朝蔵 大空]
 「ん?なーに?」


[加藤 右宏]
 「お前の呪い、それなんだ」


[朝蔵 大空]
 「えっ?」



 出た、呪い。


 私の呪いがそれってどう言う事?



[朝蔵 大空]
 「え?男運が無くなるって事……?ちょっと!!」



 私はミギヒロの胸ぐらに掴み掛かる。



[加藤 右宏]
 「ちょ、ちょっと待て……厳密に言うとソレは違くテ」



 そう言われて私は一旦ミギヒロから手を離す。



[加藤 右宏]
 「まあ簡単に言うと、癖のある野郎どもに異常にモテるようになるんだよ」


[朝蔵 大空]
 「く、癖?」


[加藤 右宏]
 「そーそー。例えば、何か問題を抱えているような奴だな。さっきの奴らは女に飢えていると言う問題……と言うやつダナ!」



 そんな無茶苦茶な……。



[朝蔵 大空]
 「普通の男子は?」


[加藤 右宏]
 「さぁそれはどうだろ?まだそこまで情報収集してないからな!」


[朝蔵 大空]
 「……意味分かんない」


[加藤 右宏]
 「……」



 あーあ、私って本当に不幸だな。


 呪いはかけられるし、変な男に捕まるし。



[加藤 右宏]
 「うーん……」



 ──『話した方が良いと思うけどな』



[加藤 右宏]
 (アリリオ……)


[朝蔵 大空]
 「……はぁ」



 私はため息を吐いてしまう。



[加藤 右宏]
 「オレ……家に居て良いのカナ」


[朝蔵 大空]
 「え?どうしたの急に」



 横を向くと暗い表情で俯くミギヒロがいた。



[朝蔵 大空]
 「別に……いたいならいれば?」


[加藤 右宏]
 「……」



 (だんま)りか……よく分かんない奴。



[朝蔵 大空]
 「帰ろうよ、ご飯もまだ食べてないし、お腹空いちゃった」



 私はブランコから立ち上がり、公園を出る。


 その後ろにミギヒロも静かに着いて来る。



[朝蔵 大空]
 「何か悩みでもあるの?」


[加藤 右宏]
 「お、オレは……」



 あまりにも静かだから。



[朝蔵 大空]
 「何があるのか知らないけどさ、何かあるなら話してよ」


[加藤 右宏]
 「え?」


[朝蔵 大空]
 「家族でしょ」


[加藤 右宏]
 「……!?……かぞ、く?」



 歩いて行く内に、我が家が見えてくる。


 無事に帰って来られて良かった。


 ただいま。





 「アサガオの約束」おわり……。