[朝蔵 大空]
 「うわーん恥ずかしいよぉ〜!」



 私は結局あのまま笹妬君からは逃げた。


 もう教室に戻ろうと廊下を走る。





 ドンッ!





[朝蔵 大空]
 「きゃっ!」



 私は何か柔らかな物にぶつかってしまう。



[朝蔵 大空]
 「ご、ごめんなさい!」



 私は人にぶつかってしまったと思って恐る恐る顔を見上げる。



[凛とした女性]
 「いえ……」


[朝蔵 大空]
 「!?」



 凄く、綺麗な人……!!


 って言うか……この人、もしかして!



[凛とした女性]
 「……?」



 芽衣(めい)様じゃない!?


 2年3組の剣崎(けんざき)芽衣さん、私と同い年だと思えないほどのナイスバディとスタイルの良さ!


 成績優秀で、スポーツ万能!


 そしてこの美貌!しかもお嬢様!


 女子皆の憧れの(まと)……。



[朝蔵 大空]
 「あわわ……」



 私は憧れの芽衣様の前でプルプルと細かく子犬のように震える。



[剣崎 芽衣]
 「朝蔵さん……?」


[朝蔵 大空]
 「へ!?」



 め、め、芽衣様が私の名前を呼んでくれている!


 で、でも私達に面識なんかあったけ!?



[朝蔵 大空]
 「な、なんで私の名前……」


[剣崎 芽衣]
 「あ、ごめんなさい。前にちょっと、ね……」



 そう言うと芽衣様が一瞬私から目線を逸らした。



[剣崎 芽衣]
 「でも、朝蔵さんでしょ?確か、朝蔵大空さん」



 わっ!フルネームまで!!?



[朝蔵 大空]
 「は、はい!朝蔵大空です!!」



 私は慌てて答える。



[剣崎 芽衣]
 「ふふっ」



 芽衣様が魅力的な優しい微笑みを浮かべたと思ったら、私の横を通り過ぎて行ってしまった。



[朝蔵 大空]
 「はわわ……」



 あ、あの憧れの芽衣様に名前を覚えられていたなんて……こんな光栄な事無いよ!


 でも、私なんかしたっけ……?


 それにしても、本当に綺麗な人だったなぁ。


 良い匂いしたし、あと……大きかった。



[朝蔵 大空]
 「それに比べて……」



 私は自分のささやかな胸元を見る。



[永瀬 里沙]
 「大空ー!卯月君いるよー?」



 教室の方から里沙ちゃんの声が聞こえてきた。



[朝蔵 大空]
 「あっ!」



 色んな事あって忘れてた!


 そうだ、卯月君に土曜日の事聞いておかないと!



[卯月 神]
 「……?」



 教室に入ると里沙ちゃんの言った通り卯月君が自席で読書をしていた。



[朝蔵 大空]
 「卯月君!私と、海デートして下さい!」



 私はここぞとばかりの堂々発言。



[卯月 神]
 「……海?春なのに?寒いですよ?」



 卯月君ってば私と同じ事言ってるよ……。



[朝蔵 大空]
 「あーその(くだり)はさっき私がそっくりそのままやったから!知ってる?海(イコール)海水浴は、お子ちゃまなんだってさ!」



 里沙ちゃんは黒板の方を見ているが、顔を見なくても後ろ姿だけで、里沙ちゃんがニヤニヤしながら私達の会話を聞いているのが分かる。



[卯月 神]
 「は、はぁ」


[朝蔵 大空]
 「そう!海デートって言うよりかは、海辺デート!で、どうですか?」


[卯月 神]
 「海辺デート?ふーん、まあ良いんじゃないですかね」



 良かった!なんかちょっと乗り気じゃない感じもするけど、卯月君も賛成してくれたみたい!



[朝蔵 大空]
 「あ、あとね!凄いんだよ?そこにはラブパワーがあるとかで、ふたりの愛が永遠に結ばれるんだって!」



 里沙ちゃんからの事前情報を私は披露する。



[卯月 神]
 「!?……永遠って……」


[永瀬 里沙]
 「!?」


[永瀬 里沙]
 (ちょっと大空それは勘違いさせちゃうでしょー……)


[朝蔵 大空]
 「日程は土曜日に動きやすい格好で!待ち合わせ場所は……あーん……朝10時に学校で良いかな?校門前!」


[卯月 神]
 「わ、分かりました……」



 卯月君はそれだけ言うと読書に戻る。


 よし!



[永瀬 里沙]
 「ふふんっ!」



 里沙ちゃんがこっちを向いてきてガッツポーズをしてきた。


 私も同じポーズをしてドヤ顔で返す。



[永瀬 里沙]
 「大空、珍しく大胆じゃん」



 コミュ障な私だってたまには"やれる"んだから!


 あとは……。


 あれれ、私なーんか他にも聞かなきゃいけない事あったはずなんだけどなー……。


 なんだっけな?



[狂沢 蛯斗]
 「聞きました今の?」


[巣桜 司]
 「あ、うん聞いてたけど……」



 まあいっか!!


 ……。



[朝蔵 大空]
 「〜♪」



 私は家に帰って来てリビングでくつろいでいた。



[朝蔵 真昼]
 「なんかウキウキじゃない?」


[朝蔵 大空]
 「えっ!?そ、そう!?」



 あー明後日の卯月君との海辺デート、自覚は無いけど私、めっちゃ楽しみにしちゃってるんだろーなー。


 なんせ男の子と初めてふたりきりでお出かけするんですもの!



[朝蔵 千夜]
 「たっだいま〜♪」


[朝蔵 大空]
 「おかえりー」


[朝蔵 真昼]
 「おかえり」



 千夜お兄ちゃんも、外から帰って来たかと思ったらリビングに入って来た。


 朝蔵()兄私弟(きょうだい)が1つの部屋に揃う。



[朝蔵 千夜]
 「あ、大空〜ケータイ貸してちょ♡」


[朝蔵 大空]
 「んー?良いけど何するの?」



 私はお兄ちゃんに自分のケータイを渡す。



[朝蔵 千夜]
 「軽ーい調べ物でーす♪ふんふーん♪」



 そう言ってお兄ちゃんはケータイを操作しだす。


 調べ物?そんなの自分のケータイですれば良いのに、お兄ちゃん自分のケータイの充電でも切らしたのかな?



[朝蔵 大空]
 「あ、ねーねー?真昼のクラスは文化祭の出し物何にしたの?」


[朝蔵 真昼]
 「まだ決まってなーい」



 私と真昼が話してる間にも、お兄ちゃんは私のケータイを触り続けている。



[朝蔵 千夜]
 「んー……」



 『五木くんをメール欄から削除しますか?』



[朝蔵 千夜]
 「こいつを……っと」



 『五木くんの削除を完了しました』



[朝蔵 千夜]
 「よし♪ありがとー大空!」


[朝蔵 大空]
 「ん」



 私はお兄ちゃんからケータイを返してもらう。



[朝蔵 大空]
 「そうだ……」



 卯月君との約束、間違えが無いように待ち受けにメモしておこうっと。


 土曜日、デート、朝10時、校門前、っと。


 これでよし!


 私はケータイの待ち受け画面に明後日の予定を書き残した。


 ……。


 その日の夜。



[朝蔵 大空]
 「おやすみ」



 私は目を閉じて眠りに落ちた。


 そして……。



[朝蔵 大空]
 「うーん……眩しい、もう朝?」



 部屋を暗くしたはずなのに、急に視界が明るくなった。


 朝が来るにも早すぎる。



[リン]
 「ソラ様!お待ちしておりました!」


[朝蔵 大空]
 「きゃっ!?」



 私の体が現実にいない事を悟る。



[リン]
 「初めましてソラ様、わたくしリンと申します。お会い出来て光栄です!」


[朝蔵 大空]
 「え!?ちょ、なんで?私、部屋で寝てたはずなのに、は?どこここー?!」



 そこは、とてもとても明るい世界だった。



[朝蔵 大空]
 「も、もしかして……私、天国来ちゃった!?し、死んだの私!?」



 若死(わかじ)にするほど体に無理をさせてたつもりは私には無い。


 目の前の羽の生えた青髪の美男子は、天使?のように見えた。



[リン]
 「申し訳無いのですが、話せる時間も限られております。大丈夫です、貴女は死んでおりません!」


[朝蔵 大空]
 「し、死んでない……?」



 私は自分が死んでないと知らされて安堵する。



[リン]
 「もう一度申し上げます、わたくしはリンと申します。あ、お察しの通りわたくしは天使でございます」



 天使なのは当たっていた。



[朝蔵 大空]
 「あ、あの……」


[リン]
 「はい、なんでしょうか?ソラ様」


[朝蔵 大空]
 「私は何故このような所に?」


[リン]
 「はい、わたくしがソラ様の事を呼んだのです」



 この人、リン?さんって言ったけ?


 て、天使様が人間風情の私になんの用だろう!?


 って言うか、これさすがに夢だよね?



[リン]
 「ソラ様、貴女に忠告させて頂きます。シンには近付いてはなりません」


[朝蔵 大空]
 「……シン?」



 "シン"って……誰?誰だっけ?


 あ、話してたら急に目の前がぼやけて……。



[リン]
 「ソラ様?くっ、ここまでのようですね。目覚めたらまた、記憶が消えてしまっていると思いますが、貴女の意識が強い事を、わたくしは信じています。また……」



 何?何を言っているの……?


 ……。


 そしてデート前日、金曜日の放課後。



[永瀬 里沙]
 「じゃあねー!掃除当番頑張れー」


[朝蔵 大空]
 「うん」



 里沙ちゃんも部活頑張れー。


 私はひとりで黙々と教室の掃除をする。



[朝蔵 大空]
 「ふぅ、終わった」
 


 掃除も終わったし帰ろうかな。


 そう思ってホウキとチリトリを掃除ロッカーに片付けていた時だった。


 廊下を歩く人の影が……。



[嫉束 界魔]
 「……ん?……あ、大空ちゃん!」


[朝蔵 大空]
 「わっ!?し、嫉束君?」



 嫉束君が私を見つけて廊下から話しかけて来る。



[嫉束 界魔]
 「ひとり?」


[朝蔵 大空]
 「うんそう、掃除当番だったから」



 あれれ、昨日会ったばかりだけど。


 なんだか嫉束君と直接話すのは久し振りな気がするな?


 って、そもそも学園の王子の嫉束君と話せる事なんて、滅多に無いんだけどね。



[嫉束 界魔]
 「あははそうなんだ。僕も当番で、今帰ろうと思ってた所」



 でもそんな彼がこうやって私に気さくに話し掛けて来てくれる。


 私と嫉束君は一応友達関係にある。


 でも、他の女の子達からしたらそんなの関係無い。


 男女の関係にあるなら、友達だとか関係無い。



[朝蔵 大空]
 「……」



 私は一度周りを見渡して、近くに人が居ないか確認する。


 そして誰も居ない事を知り、安心して嫉束君と目を合わせる。



[嫉束 界魔]
 「ふふっ、心配しなくても誰も居ないよ」



 嫉束君が私に微笑みかける。


 嫉束君も分かってる、私が誰かに嫉束君と一緒にいるところを見られたくない事を。


 まあ本当に誰も見てないなら話しててもいっか。


 でも、うーん。



[朝蔵 大空]
 「あ、そうだ……昨日ね」



 嫉束君の顔を見て私は何かを思い出す。



[嫉束 界魔]
 「ん?」


[朝蔵 大空]
 「私、お友達のお友達と、お友達になっちゃったんだ!」



 私はウキウキでポッケに片手を入れ、ケータイを取り出そうする。



[嫉束 界魔]
 「え?な、何それ!『お友達』がいっぱいでなんか嬉しいね」



 私の下手くそな日本語に、嫉束君が可愛いらしい笑顔で笑う。



[朝蔵 大空]
 「えへへ、ほらこれこれ!」



 私は嫉束君にケータイの画面を見せる。



[嫉束 界魔]
 「んー?…………えっ」



 私のケータイに映るのは『笹妬くん』の名前。



[朝蔵 大空]
 「ね、お友達のお友達だったでしょ?」


[嫉束 界魔]
 「あ、うん……吉鬼と交換したんだね」



 あれ、嫉束君の反応……私が思ってたのと違うな。



[朝蔵 大空]
 「うん……昨日裏庭でね、嫉束君が居なくなってからしたの」


[嫉束 界魔]
 「え……まさか昼休み?大空ちゃん居たの?」


[朝蔵 大空]
 「あ!」



 しまった、ついボロが……。


 嫉束君にも見てたのがバレてしまった。



[嫉束 界魔]
 「……」



 あ、まずい……嫉束君が黙っちゃった。


 そりゃ盗み見されてたら誰だって気分悪いよね。



[嫉束 界魔]
 「…………」


[嫉束 界魔]
 (吉鬼と話してた事、大空ちゃんに聞かれてたとしたら……うーん、ちょっとヤバいかも)


[朝蔵 大空]
 「あ、あの……ごめん?」



 私は嫉束君に申し訳無さそうに謝ってみる。



[嫉束 界魔]
 「……大空ちゃんはさ、僕と吉鬼、どっちの顔が好き?」



 え……突然なに?変な質問……。



[朝蔵 大空]
 「な…………何それー!」



 私はあまりにおかしくて笑ってしまう。


 嫉束君がまさかそんな事聞いてくるなんて!



[朝蔵 大空]
 「うーん、嫉束君と笹妬君かぁ……ふたりとも顔のタイプが違うから、優劣は無いと思うの!」



 私はあえてどっちも選んでないような返答をした。



[嫉束 界魔]
 「ふふっ、そっかそっか。ま、吉鬼カッコ良いもんね」


[朝蔵 大空]
 「し、嫉束君の顔には皆がメロメロだよー!」



 キラキラしてて美形だなって思うのは間違いなく嫉束君だ。



[嫉束 界魔]
 「う、うんありがとう」



 私はこの時、ある事に気付く。



[朝蔵 大空]
 「あ!ゴミ袋切らしてる!私、取って来るね!じゃあね!嫉束君」



 私は持っていたケータイを近くの机に置いて職員室へと向かう。



[嫉束 界魔]
 「あ、うん。じゃあね!」


[嫉束 界魔]
 (大空ちゃんのあの様子……特に何も聞いてないみたいで良かった)


[嫉束 界魔]
 「……ん?」



 嫉束が机に置きっぱなしになった大空のケータイに気付く。


 土曜日、デート、朝10時、校門前。


 と言う待ち受けのメモ。



[嫉束 界魔]
 「デート…………誰と?」





 「画面より夢中」おわり……。