公園を出たマチルダは、学園へと向かっているようだった。
 私は学園の裏口から入って先回りすると、学園の入り口前の長い石階段を昇ってくるマチルダを待ち構えたのだった。

「あら、ごきげんよう。カナリア様」
「ごきげんよう。マチルダ様」

 踵を鳴らしながら、階段を降りてマチルダに近づいて行く。
 そうして両手を伸ばして、力を入れると、マチルダを階段から突き飛ばしたのだった。

「きゃあ!」
「わたしの王子に何をするのよ!?」

 ゴロゴロと転がりながら、階段を転げ落ちていく姿があまりに滑稽で、笑いが止まらなかった。
 マチルダが転がり落ちる音を聞きつけて、学園の関係者がどこからか現れる。
「カナリアに突き落とされた!」という、マチルダの金切り声が聞こえてきたするが、それを無視して、足早に去って行く。

「カナリア様!」

 前方からは、原作でマチルダの取り巻きをやっていた女子学生たちが、空き教室から顔を出して声を掛けてきたのだった。

「どうしたんですか?」
「最近、王子様と親密になったことで、すっかり大人しくなってしまって、つまらなかったんです!」
「やっぱり、カナリア様が一番ですわ!」
「あなたたち……」

 わたしはクスリと笑うと、胸を張った。

「ええ、ええ。マチルダってば調子に乗っているのよ。わたしが教えなくては。
 調子に乗ったら、どうなるのかを!」

 顔を歪ませて笑う、その姿。
 胸の中にあった、意地悪な才能が花ひらいた姿。
 その姿は、まさに――。