(今のは一体、なに?)

ぼんやりと目を開けて考えていると、すぐ近くに人の気配を感じて振り返る。

若い男の人とその祖父らしき人が、呆然とこちらを見ていた。

「あ、す、すみません!私、勝手に…」

慌てて謝るが、ふと、妙な違和感を覚えて眉根を寄せる。

(私、なぜここに?ここはどこ?)

全くと言っていいほど、何も思い出せない。

(ちょっと待って、私、私は誰なの?)

不安に駆られていると、二人は屋敷の中に招き入れ、お茶を出してくれた。

いくつか質問されるが、やはり何も答えられない。

だが祖父が、桜、と口に出した途端、無意識のうちに、はいと返事をしていた。

え?と戸惑ったが、やはりもう一度、桜と言われた時も返事をしてしまう。

「君、さくらって名前なんじゃない?」

そう言われて納得した。
私の名前は、さくらだ。

だが、それ以外のことは何も思い出せないままだった。