彼はただ私にお礼がしたかっただけ。それを受け取り終わったのだから、これ以上、我が儘は言えない。

 感謝を伝えて、離れなきゃと思うのに、そうはさせないとでも言うように彼が私の手を取った。


「街で君に似合うと思ったから。どうか受け取ってほしい」


 そう言って、私の首に光り輝く赤い石が装飾されたネックレスを着けると満足そうに微笑んだ。


「君の笑顔の輝きには、その石も負けるがな」


「え……」


「君には笑顔が似合う。だから、何があっても笑っていてくれ」


 取られた手を持ち上げられ、そのまま手の甲に彼の唇が軽く触れた。

 何が起こったのか分からず固まっていると、彼は少し名残惜しそうな笑顔を浮かべて掴んでいた手を離してそのまま立ち去っていく。

 追いかける理由も無ければ、呼び止める理由もない。

 ただ彼の唇が触れた温もりだけがそこに残っては、熱を広げるように全身を駆け巡る。