特訓に付き合ってくれる真面目な瞳も、柔らかく包み込んでくれる毛並みも、優しく励ましてくれるあの声も……何もかも感じることはできない。

 バルが居たから強くここまで歩んでこれた、せめてものお礼くらいしてお別れしたかったな。

 
「はあ……」


 つい溜め息が零れ落ちて、沈んでいる気持ちに慌てて活を入れる。

 落ち込んでばかりじゃ、いつの間にか最悪の結果を迎えていることにも気がつけなくなる。

 会いたい気持ちを今は押し殺して、幸せを掴めたらバルに報告する旅いでも出ればいいのよ!

 出来るかは分からないけど、そんな希望を持っていれば頑張れる気持ちが溢れてくるんだし。


「よし。家に帰って、精霊についての知識を蓄えようかな」


 気分転換も出来たしと、広場を抜けて家路に着こうと思ったけれど、ベンチに置き去りにされた小さな巾着袋が目に留まる。

 金糸で刺繍された綺麗な模様が入った巾着袋は、大切なものであることが一目で分かった。