でも、そういう気持ちはよく分かる。

 職場内の飲み会とかで、よく上司が店員さんにケチつけるような文句を言いつけて、挙句騒動起こして美味しいご飯が一気に美味しくなくなったあの状況とほぼ変わらないもの。

 心の中で何度も謝ろうとしても想いは言葉にならないのが歯がゆい。もっと場の空気が悪化する前に、ここは早い所退散したい。

 無理矢理にでも体を動かして帰ろうとしたが、可愛らしい声が近づいてきた。


「アーサー様、紅茶と焼き菓子を用意したのでどうぞ!」


 場の空気を変えるようなファナの声掛けによって、アーサーの顔が驚く程に朗らかになっていく。

 流石ヒロイン!ナイスすぎる!こんなに怒りに染まったアーサーの怒りを静めるなんて!!

 こちらに向けられる周囲のざわつきが若干気になるけど、アーサーの機嫌を直せるなら何だっていい。用意してくれた焼き菓子も凄く美味しそうだし、この場はなんとか持ち堪えられたかと思ったけど……よろしくない予感がする。

 嫌な予感程、的中してしまうのはどうしてだろう。

 アーサーが少し目を話した瞬間、私はファナに近づき脅すような声で囁いた。


「婚約者のわたくしが居る前で、どういうおつもり?」


 ファナが持って来たカップをわざと払うと、カップは見事に地面一直線に落ちていく。