悪役令嬢は最後に微笑む





 それもそのはず。

 威嚇するわけでもなく、不安を拭うように私に大丈夫だと優しく慰めてくれる瞳がとても温かい。
 

「きゃあっ!」

 
「魔物……!召喚の力に寄って来たのか?!」


 狼の存在に震え、悲鳴を上げたファナはアーサーの元へと駆け寄り、奥に控えていた騎士達がアーサーの言葉と共に剣を抜いてすぐさま構えた。

 ただならぬ空気に、この狼の身に危険が迫っていると直ぐに理解した。


「リサリル、そこをどけ。魔物を始末する」


 原作にないこの現状に、私はようやく自分の意志で動くことができた。

 隣に居る狼が、まるで私の存在を肯定していてくれるようで、不思議と勇気が湧いてきた。

 アーサーの言葉を聞かずに、狼の前に庇うように立つと首を横に振る。


「先程ご自身で言った事をお忘れですか?召喚の儀には大精霊様からの特別な意味が込められていると。この子も特別な意味があってここに来たと思わないのですか?」

 
「それとこれは別だ!」


「なら、私が精霊の力の使い手としてこの子を保護します」


「何をふざけた事を……」


「ふざけてなんかいません。大精霊様の神聖な儀式で、無残な血を流すなんて見過ごすことは出来ません」


 前世では人生も物語もバットエンドで締めくくってしまったけれど、きっとこの選択は間違いじゃないはず。

 傷ついた痛みを知っているからこそ、誰かの傷つく姿はもう見たくない。