「ああ、たしかに。先輩の絵って、モノクロなのに緑が緑に見えるから不思議なんですよね。色の濃淡だけで木々を表現するのって、すごく難しいのに」
「まあでも、俺は人や動物は描かないし。メインに据えるものが生物でないぶん、むしろ表現域は広いと思ってるけどね」
「そういえば、先輩が生き物の絵を描いてるの見たことないかも。なにか理由があるんですか? こだわりとか?」
興味本位で尋ねると、ユイ先輩は顎に指を添えて虚空を見つめた。
それからわずかに「んん」と唸り、ゆらゆらと視線を泳がせる。
「……そう言われると、明確に考えたことないかも。なんとなく避けがち。たぶん、鉛筆で生命力を表現するのはあまり向いてないんだよ」
「ああ、なるほど。感覚的なものだけどわかる気がします。瑞々しさというか、こう内から湧き上がってくる命の煌めきみたいなものですね」
「うん。あくまで形取っただけのスケッチみたいなのはべつなんだけど、俺が描くと、過不足になるというか……どこかで描いちゃいけないかなって思ってる」
先輩は思案気に「たぶんね」と独り言のようにつぶやく。
「描いちゃいけない……?」
どういう意味だろう。
さすがに汲み取れなくて繰り返した私に、ユイ先輩は少し困ったような顔をした。
視線を三点ほど空中で動かしながら、「ええと」と頬を掻く。
「そもそも、俺が色を使わずに絵を描くのは、俺自身がそう見えてるからでさ」
「見えてる……色がない、てことですか?」



