モノクロに君が咲く




 広海水族館は、地元民に愛される小さな地域型水族館だ。

 外から観光に訪れるほどの魅力はなくとも、展示されている海生物はそれなりに充実しているし、園内には子どもが遊べるようなアトラクションエリアもある。

 地元割もあるため、気軽に立ち寄れる遊び場として親しまれていた。

 しかし数年前、隣町に大規模のエンターテインメント施設ができた影響で、一気に観覧客が激減してしまったらしい。この世知辛い情勢では、もう遠くない未来に閉館してしまうのではないかと風の噂で聞いていた。

 実際、夏休み期間にもかかわらず、広海水族館の人はまばらだった。

 外のアトラクションエリアの方からは、いくらか楽しそうな子どもの声が聞こえてくるものの、主役である館内はほぼ無人と言っても過言ではない。

 近頃は子どもの数も減っているし、閉館の噂もあながち嘘ではないのかもしれない。

 まあ個人的には、先輩とふたりきりになることができて嬉しいのだけれど。

「……疲れてない?」

「大丈夫です。ふふ、先輩もたいがい心配性ですね」

 あっけらかんと返しながらも、ついこの間倒れたばかりであることを考えると無理もないな、と思う。

 もし逆の立場だったら、たぶん私はまともに鑑賞もできなかっただろう。

「先輩。この水族館の生き物から描くものを決めるんですか?」

「そう。小鳥遊さん、基本的に水彩画でしょ。とくに水の表現が上手いから」

 思いがけない言葉に、私は目を丸くした。

 ユイ先輩が鉛筆画専門であるように、私の専門は水彩画だ。部活中も好んで水彩を用いるし、よほどのことがなければ油絵には手を出さない。

「私が水彩画好きって先輩が知っていたことに驚きです」

「そりゃあ……毎日のように隣で描いてればね。言っておくけど、美術部の部費管理してるの俺だよ。つまり、画材注文してるのも俺なの」

「あ、そっか。言われてみれば」