モノクロに君が咲く


 保健室へ向かう足が、自然と早くなる。

 校舎を突っ切り、最短距離で保健室前まで辿り着く。

 気が急いてノックもなしに扉を開けようとした瞬間、俺の目の前で扉がガラッと勢いよく開いた。さすがに驚いて、俺は伸ばした手をそのままに硬直する。

 そこに立っていたのは小鳥遊さん、ではなく。

「……榊原さん?」

「結生……なんでここに」

「なんでって、小鳥遊さんが保健室にいるって聞いて。そっちこそなんで」

 あまりに予想外の人物だった。

 やや遅れながらも状況を?み込んで、俺は訝しく眉を顰める。

 すると、榊原さんはハッとしたように背後を気にした。その視線を追いかけようとした矢先、唐突に胸部に衝撃が走る。榊原さんにドンッと強く押されたのだ。

 数歩よろけながらも、なんとか転ばないように耐える。

 ほぼ同時に保健室から出てきた榊原さんが、俺を睨みつけながらうしろ手にピシャリと保健室の扉を閉めた。シン、と一瞬にして場の空気が凍りつく。

「……なんのつもり」

 自分でも驚くほど低い声が落ちる。

「っ……あなたをここに入れることはできないわ」

「なんで」

「なんでも。あの子のことを想うなら諦めて」

 あの子、とは小鳥遊さんのことか。

 榊原さんは、一応、俺の元カノに当たる人物だ。

 だが、正直、元カノと呼べるほどなにかをしたわけでもない。付き合っていたらしい当時は、俺自身その自覚もなかったくらいだ。

 けれど、ゆえにこそ、傷つけてしまったという負い目はある。

 だから俺は、榊原さんを無碍にできない。