「俺を誰だと思ってんの」
制服のポケットからそれを出して見せると、隼は瞠目した。
「屋上庭園の鍵くらい持ってるに決まってんじゃん。あそこ管理してるの俺だし」
「うっわ。おまえマジかよ」
「うちの顧問、放任主義だから。部長権限ってやつだね」
閉められているのなら開ければいい。
俺は正式な許可を得て、鍵を所有する者なので。
なぜか引き気味の隼を連れ立って、通い慣れた屋上へと向かう。
もう二年以上も入り浸っていることを思えば、やはりあの場所は相当に居心地がよいのだろう。家のアトリエよりもよほど落ち着くし、今年で卒業してしまうのがもったいないくらいだ。
屋上へ繋がる階段をあがっていくと、ふと上から声が聞こえてくる。扉の前で女子数名が屯っているのが見えて、一瞬、足が止まりそうになった。
「ん? 先約か?」
「……いや」
しかしながら、なんとなく予感を覚えた俺は、構わず階段をあがる。
そこにいた三人の女子がこちらに気づいて振り返り──そのうちのひとり、小鳥遊さんが「先輩!」と目を丸くしながら驚いたように声をあげた。
やっぱり、というか……案の定、小鳥遊さんだった。なんとなく聞こえてきた声のトーンで気づいてはいたが、まさかこんなところで会えるなんて。
自然と心が浮き上がるのを感じながら、俺はちらりとうしろのふたりを見る。
「……友だち?」
「あっ、はい! 円香とかえちんです!」
なんとなく聞き覚えのある名前に「ああ」と首肯する。
よく小鳥遊さんの話に出てくる人たちだ。



