「……そんなことって……」
俺は頭痛がしてきた額を押さえて、ぐったりと項垂れた。
そもそも、なぜ思い至らなかったのだろう。
鈴ほどの才能に恵まれた子が、これまでの絵画コンクールに作品を出してこなかったわけがない。おそらく彼女も学生画家界では、期待の星だったはずだ。
もう一年半の付き合いになるにもかかわらず、今さらこんな事実を知るなんて。
「おまえの絵はさ、いつも安定してんじゃん?」
「っ、え?」
俺の隣で足を投げ出しながら、隼は自分用に買ってきたらしい缶コーヒーを開ける。
「よくも悪くも、あぁ結生だなって思わせられるような絵なんだよ。上手いし世界観もはっきりしてるし。でも、人間の痛いところをついてくるっつーか、気づかないうちに囚われる。だから、おまえがコンクールに作品を出してる間は、絶対金賞だろうなって思ってた」
今度はボーロ型のチョコレートを差し出してきた隼に、俺はなんとも複雑な心境で受け取る。口に転がせば、甘い香りが少しだけ荒ぶっていた心を落ち着けた。
「逆に小鳥遊さんの絵は、毎年まったく違うから新鮮味がある。色の使い方とか天才的だし、たんに一枚の絵として成立してるんだよな。だけど、そこにハッとさせられるなにかがあるんだよ。感情が溢れてて、つい目を惹く。そこに絵を描く小鳥遊さんが立ってるような気になる、そんな絵。だけどおまえを越えられないのは、たぶん……欲かな」
「……選評委員みたいなこと言うんだね、隼。そんな観察眼優れてたんだ」
「伊達に長年おまえの幼なじみやってねえよ。毎年見に行ってんだぞ。素人目もそれなりに鍛えられるってもんだ。慧眼だからな、もはや」



