緑豊かな森林のなかで、ひとりの少女が幻想的に踊っている絵だった。

 多くの色を用いる使い方こそ鈴のものだとよくわかるが、描かれているもの、描かれ方はあまり鈴の印象と直結しない。

 俺はひとつ前のページに戻り、今度はその前の年のページを開く。トップに表示されたのは自分の絵だ。下にスクロールして、ふたたび言葉を失った。

「……嘘、でしょ」

 銀賞。中学二年生、小鳥遊鈴。

 今度は一転して、大嵐で荒れ狂う海を俯瞰的に描いたものだった。

 激しい波飛沫を上げる海の中央には、沈没しかけている海賊船。暗黒の雲に覆われた空には稲光が主張し、見事な明暗のコントラストが表現されている。全体的に温度が低く、暗度が高い色合いにもかかわらず、細部にはやはり数多く色を用いていた。

 表現技術としては、この頃からすでに目を瞠るものがある。

 けれど、やはり今の鈴と直結しない。その前の年の絵も同様だった。まったくテーマの異なる絵が、鈴らしい色味で描かれていた。

 こんなにも多種多様なものを描ける子だったのか、という驚きと、毎年鈴が銀賞を取っていたという事実の衝撃が交錯して気持ちが追いつかない。

「おまえ、本当に知らなかったのかよ……」

「………………知らなかった……」

「マジでアホじゃん。小鳥遊さんもこんなやつがずっと自分よりもいい評価を取ってたなんて知って、さぞかし落胆しただろうな。可哀想だわ」

 同情の籠った隼の言葉に、鈴と初めて会ったときのことを思い出した。

 誰、と不躾に聞いた俺に、鈴はなんて答えていただろう。たしか『ですよね』とか、そんな意味深な返しをしてこなかったか。──してきた気がする。