モノクロに君が咲く


 溜め込んでいた不満が一気に爆発したように声を荒げ、ユイ先輩の腕を強めに掴んでグイッと引き寄せた沙那先輩。

 よろけたユイ先輩は、苦々しい顔をして引いてきた彼女を睨んだ。

「榊原さんには関係ないじゃん」

「関係あるわ。ありまくりよ。あなたがそんなんだとこっちの気が休まらないんだもの。相変わらず絵ばっかり描き続けて──このままだと廃人になるわよ!」

「…………。はぁ、ほんと……最近そんなのばっかだな」

 面倒くさそうに嘆息したユイ先輩は、珍しくいらいらしているようだった。あまり見たことがない姿に戸惑いながら、私はおそるおそる声をかける。

「せ、先輩? どうしたんで……」

「進路ってそんなに大事?」

 私の声を容赦なく遮り、ピリリと棘のように鋭さを持った声が空気を切る。その矛先は間違いなく榊原さんのはずなのに、なぜか私にも向けられている気がした。

 自然と喉の浅い部分で引っかかっていた言葉を、こくりと飲み込んでしまう。

「べつにさ、俺がどの道に進もうが勝手でしょ。うちの親は放任主義だし、家を継がないなら好きに生きろって言われてるんだよ」

「っ、でも」

「どちらにしても、榊原さんにいろいろ指図される筋合いはないと思うんだけど」

 ユイ先輩、と声をかけようにも、なんだかいつもの先輩ではないみたいだ。

 受験生は往々にしてピリピリとしていると相場が決まっている。

 だが、それがユイ先輩となれば話はべつだ。

 彼は普段から、感情の起伏が少ない人だ。とりわけ〝怒り〟に関しては顕著で、人前で露わにするようなことは滅多にない。